作り手のこぼれ話


【大型模型】

西村 善政さんは、さんけい本来の工法による『ジブリの立体建造物展』用の模型を担当されました。

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最初に打診を受けたときはどう感じましたか?

西村  [大岩家]の場合は初めて見るものでしたが、
[グーチョキパン店][宗介の家]はすでにキット開発で担当し馴染みのあるものでしたので、
勝見からこういう仕事が来ている、と聞いた時から
「今回は何やらせてもらえるだろう......?」とワクワクしていました(笑)。

[グーチョキパン店]はケースに入った展示ですが、
見えない部分にもこだわったと伺いました。

西村  そうですね。後ろの部分も見て欲しかったです。キットにはないのですが
裏側に漆喰の壁がはずれて中のレンガが見えているようなところも作りました。

でも展示を見に行ったら、裏側が見えなかったと。

西村  そうなんです(笑)、ケースの中でした(笑)。
このくらいのレベルはお求めになるだろう、と思い作り込んだんですけどね。

『崖の上のポニョ』の[宗介の家] の場合は、
映画の中で、直線ではないふっくらと歪んだ線で建物が描かれていますから
立体にしづらいのではないかと思いましたが、いかがでしょう?

西村  私がやらせてもらった段階では先に当社で発売しているキットがあったので、
打ち合わせでジブリさんと話した時から、そのキットをたたき台にしました。
展示模型の屋根などは、キットよりも丸みを強調しています。
それと、キットではまっすぐなんですが、下の方を絞って表現したんです。
丘の上に見える家は、見あげた時のイメージがあるので。

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ジブリさんはどの映画を観ても、観れば観るほどそのシーンのイメージがありますから。
たとえば夕日があたったら"夕日があたる情景"というイメージがあるでしょうし、
映画を観た時の気持ちを考えながら、窓枠のアールを切ったり大きめにしたり、絞り方を考えたりしました。

「模型にしたら面白いな」と感じる作品はありますか?

西村  それはそれぞれにあると思います。
現場のスタッフは、一番若いものが[油屋]をやりましたが、
年齢も好みもそれぞれ違うんですね。
[サツキとメイの家]はみんなが好きでしたが、私なんかは『紅の豚』ですね。
絶対にホテルアドリアーノが欲しい(笑)。絶対にサボイアをつける(笑)。
自分をポルコ・ロッソに重ねてイメージするんでしょうね。

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【ジブリ美術館 模型】

日下 智さんは、シリーズの中で唯一、実際の建物として存在するジブリ美術館のキットを担当。これに関しては他のシリーズと違う点があるのでしょうか?
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最初はまずどこから取り組まれたんですか?

日下  まず、美術館の写真を撮らせていただきました。
建築図面はいただいていたんですが、
図面だけではわからない部分が出てきますので、
そういった部分を中心にくまなく写真を撮りました。
裏まで入らせていただき、給水塔にも行きましたね。
美術館のあらゆるものを細部まで全部写真に撮ったと思います。

難しかった箇所や工夫が必要になったのはどんな点ですか?

日下  外壁を覆う蔦などの緑がものすごいので、
それをこのキットで表現するにはどうすればいいのかなと、まず感じました。
それから、美術館は建物の角がアールになっていますので、
そこを組み立てるのに難しくなりすぎないように
できるだけ紙の裏側に筋をたくさん入れて、
簡単にきゅっと曲がるようにしています。

半地下になっている部分はいかがでしたか?

日下  これまでの当社のキットでは
地面から下は表現していなかったので、
今回初めて台座をつけました。
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▲試作中の模型。台座の下に半地下のテラスが作られている立体的構造

設計しているときに、
「ここは面白いな」とわくわくするポイントはありましたか?

日下  色分けされている紙をパーツごとに
パズルのように合わせていくと、ちゃんとピッタリと組み合って
形が現れるところが楽しかったです(笑)。
僕は試作品を作っていてそう思いました。
また、建物の正面から見ると、
窓の位置が目と口のように見えてきて......顔ができてくると楽しいですよね。

美術館は色の数も多彩ですし、
屋外にあるイスや旗、螺旋階段など、小さくて細かいものがたくさんあります。
それらすべてをひとつずつ作り込んで作り込んで...
なんとか全てを盛り込んでキットを完成させたところ
難易度はシリーズ最高になってしまいました(笑)

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【油屋 模型】

ジブリ作品シリーズ最大の[油屋]を手がけた鎌田寿一さんは、
毎日『千と千尋の神隠し』のDVDを何度も何度も繰り返し観ながら
一日10時間の格闘で約半年かけたそう!
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油屋だけでなく宮崎監督の描く建物は
有機的な曲線の表現が多いですよね。
それを現実の3D上で再現するときにどこかで無理が出ないですか?

鎌田  生じてきますね。そこは現物を復元するときでしたら
現物に忠実に作るのですが、映画には監督の世界観があるので、
多少これは現実ではありえないんじゃないかと思っても、
面白ければ形を近づける努力をしますね。

例えば、油屋の裏手の階段は、もうちょっと長いかもしれないですね。
千尋がダダダダっ、と降りる長さや時間、
壁にある窓の位置から段差の数を逆算したりするんです。
再現してもいいのですが、
キットの場合は作りやすさとの兼ね合いになってくるので
全部は盛り込めません。あの迫力あるシーンの
イメージとして深く印象に残っているところを合わせていくんです。
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一番わからない(難しい)と思ったところはどこですか?

鎌田  油屋の後ろの部分ですね。
映画には1シーンのみ、雨が降る中に湯婆婆が鳥になってでていくシーンがあるだけで...。
そこはDVD の場面をキャプチャーし解像度やコントラストを上げて確認したり、
あらゆる参考書籍を見ました(苦笑)
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これから手がけてみたいものはありますか?

鎌田  建物の〈内部〉はやってみたいですね。
『コクリコ坂から』のカルチェラタンとか、
あのごちゃごちゃとした感じが作れたらいいなと思っています。

でも、油屋でさえ説明書のページ数が80ページ(!)以上になってしまって(笑)、
内部まで作り込んだキットにすると、
電話帳みたいな説明書ができあがるかもしれませんね。

貴重なおはなしをありがとうございました


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