2001年09月


09月01日(土)
カフェスタッフのトレーニングが始まる。美術館スタッフが「お客様」となって、カフェで昼食を食べるというものだ。一組目のお客となった広報チームの田村さん、机さんを「いらっしゃいませ」と店長の堀口さんがにこやかに迎え、次々に「お客様役スタッフ」がカフェを訪れた。カフェスタッフは大変だったが、秋の訪れを感じさせるよく晴れた涼しい日だったので、皆は気持ちの良いランチタイムが過ごせた。


09月03日(月)
地下一階展示室の大物展示物「フィルムぐるぐる」の搬入が先週末から始まり、全貌が見えてきた。数え切れないほどのフィルムリールがスペースの中のいたるところに取り付けられ、そこにフィルムが縦横無尽に張り巡らされていく。今はテスト用のフィルムが掛かっているが、この装置のためのオリジナル「超短編」フィルムが完成間近だそうで、待ち遠しい。


09月04日(火)
カフェ、ショップ、総務そして運営スタッフが、納金機などの研修を受ける。
最新式の機械があっという間にお金をカウントするのを見て一同驚き、感動していた。一方「これならサルでも操作できる」と西方さんが操作性の良さに感心していたのだが、「難しい…」と洩らしているスタッフもいた。


09月05日(水)
北嶋さんが地下1階のトイレの装飾作業をほぼ終える。女子トイレには人形やドライフラワー、ベンチや鐘など北嶋さんのこだわりを感じさせるものが並び、まるでヨーロッパのアンテイークショップのようだ。ただし、それらを楽しめるのは女性だけだったりするのだが。


09月06日(木)
トイレの扉にステンドグラスが入る。かわいらしいお花の絵があったりして、トイレがさらに楽しいところになっていく。

1階常設展示室への古書の搬入が行われる。前回のリベンジというこで運び込まれた大量の本も余ることなく収まってしまい、「ひょっとしたらまだ足りないかも」と心配されたが、宮崎監督のOKが出て一安心。ちなみに古書だけでなく、イメージボードや背景画などもいくら壁に貼っても足りない感じがするので、この部屋は「ブラックホール」と呼ばれている。


09月07日(金)
カフェがほぼフルメニューで試験営業を行った。「くいしんぼうのカツサンド」や「ふぞろいイチゴのショートケーキ」など、皆がかねてからねらっていたものを注文していた。ガラスケースの中には大きなケーキがいくつも並んでいて、どれを選ぶか悩んでいる人も。一方、カフェスタッフは初の本格営業に大忙しの様子だった。

明日の見学会に備えての作業が各部署で大詰めを迎え、深夜にまで及んでいた。


09月08日(土)
美術館関係者を招待しての、初の大々的な見学会が行われる。「ワクワクするね」とニコニコ顔の吾朗館長が屋上に美術館の旗を掲げに行くなど、早朝から準備が進められた。とはいえまだ完成していない展示室もあり、「夏休みの宿題が終わってないんです」と言う宮崎監督も、一階常設展示室の一部屋を使って自ら看板を書くなど作業が続行中。そんな様子を仮囲いの隙間やのぞき窓から見つけて歓声を上げるお客さまもいて、「監督も展示物」状態になってしまっていた。


09月09日(日)
昨日に引き続き見学会が行われ、宮崎監督や男鹿和雄さんの展示室での作業も、半ば展示されている状態で続けられた。一方、「トトロぴょんぴょん」やネコバス、ロボット兵など、無事昨日からお披露目を迎えたスポットでは歓声が上がるなど嬉しい反応が得られ、スタッフも一安心。特にネコバスでは子供たちが大はしゃぎ。いろいろ検討すべき課題も出たが、意義ある二日間だった。


09月10日(月)
夜8時から全体ミーティングが予定されていたが、夕方になって台風が近づいてきた。テレビなどで気象情報をチェックするかたわら、ジブリでは安全のため 6 時くらいに帰宅するスタッフもいるという情報も入り、吾朗さんは会議を行うかどうかの決断を迫られる。とはいえこの日を逃すと、それぞれの部署でのオープン準備が大詰めを迎えている今、暫く全体ミーティングを行うことができないということで、台風襲来覚悟でミーティングが行われた。ところが10時過ぎに会議が終わってもまだ台風の影響は無く、スタッフは無事帰宅できた。吾朗さんの覚悟に台風もスピードを緩めたのだろうか。


09月11日(火)
ミュージアムショップ「マンマユート」の広報用写真の撮影が行われる。この日に備えて店長の塩島さんが毎日店内に置く小物を考え、夜遅くまでディスプレイをしながらやっと仕上げたお店だ。カメラマンの落合さんによるショップ外観のポラロイド写真を見て喜ぶ若き店長の健気さに、撮影に立ち会っていた広報の机さんはほろりとしていた。


09月12日(水)
午前中に美術館で避難訓練が行われる。良く晴れた秋の空の下、緊急時の通報のしかた、人工呼吸の練習など、多くのスタッフが参加して訓練を受けた。消火器を持っての訓練はみんな恥ずかしいのかどこかぎこちない。そんな中、「火事だー!」と危機迫る大声を出して消防署の指示の通り動く佐藤さんに、女性スタッフから「おおっ!」という声があがっていた。


09月13日(木)
7箱作る予定のパノラマボックスで、新たに「海底大冒険」と名づけられた絵が完成し、地下一階の常設展示室に設営された。絵が描かれた8枚のガラスが箱の中に入れられ、光を当てることで、奥行きのある空間が生れる不思議な展示物だ。
ライティング一つで雰囲気が変わるので、宮崎監督はああでもないこうでもないと、何度もスイッチをいじっていた。後の残りの絵はジブリの美術スタッフによって、なんとかギリギリ間に合うように描かれているとのこと。


09月14日(金)
朝3時から日本テレビのスタッフと橋田さん、田村さんが美術館に集合し、「あさ天5」「ジパングあさ6」の生中継に立ち会う。一部の新聞やホームページでも告知はしていたが、この日が美術館と予約制チケット販売に関する最初の大きなメディア露出の日となる。そのため朝から問合せの電話が美術館に殺到。世間の美術館への関心の高さを再認識させられた。


09月15日(土)
いよいよ1階企画展示室「千と千尋の神隠し」展の設営が本格的に始まる。
ジブリから運んできた原・動画、美術のすべてを展示するというものだ。
宮崎監督の指揮のもと、パネルにどのように絵を貼るか検討してみたが、あまりにも大量に絵があるため途方にくれていた。しかしそれにもめげず監督は、なんとか「千」の物語をいくつかのパートに分け、パネルの枚数をはじき出し、 1415カット全部の背景画に目を通し、選んだ絵をなんと展示室の床一杯に並べ、さらにそこからパネルに展示する絵を選ぶという途方もない作業に取り掛かった。


09月16日(日)
館内の壁画作業も大詰め。先日終了したジブリの美術・増山さんによるカフェの「だまし窓」に続き、男鹿和雄さんの作業が夜になって完了した。ちょっと昔のアニメーター達の作業風景が描かれ、ようやく展示室がひとつの「アニメスタジオ」となった。


09月17日(月)
マスコミを美術館に招待して、プレスプレビューが行われる。およそ190媒体、約400名のマスコミ関係者が来館し、大々的な取材が行われた。橋田さん、メイジャーの脇坂さんが仕切りを担当して、およそ一日がかりだった。
映像展示室で行われた会見には宮崎駿館主、吾朗館長、三鷹市の安田市長が登壇して挨拶を述べ、たくさんのフラッシュを浴びていた。


09月18日(火)
火曜は休館日。プレビューのお客様はなく、美術館はひっそりしていた。しかしカフェの厨房にいるシェフの横田さんは、朝早くから出社して次の日のための仕込みに追われていた。準備には毎日余念が無い様子だ。


09月19日(水)
地下1階展示室に7つ並ぶ予定のパノラマボックス。しかし肝心の中に入るガラス絵はまだ3作しか出来ていない。残る4作の内のひとつに取り掛かる男鹿和雄さんに、三好さんはガラスを渡しつつ打ち合わせ。ぎりぎりのスケジュールにもかかわらず「1日2枚描けば間に合いますね」という男鹿さんの心強い言葉がありがたかったそうだ。


09月20日(木)
夜8時過ぎ、突如警報装置が鳴り響く。驚いた田坂さんが発信源を調べたところ、従業員用のエレベーターからだった。急いでエレベーターの前に行くと、下りてきたのは深谷さん。たまたまボタンを押し間違えてしまったらしいのだが、謝ったあと、飄々と事務所の前を通り過ぎていった。その冷静な態度に、連日の見学会の運営をまとめているだけある、と居合わせた一同は妙に関心。


09月21日(金)
夜中まで作業が続く1階企画展示室にいる安西さんから「時間がある人は見にこない?」との無線連絡。田坂さん、田村さん、吾朗さん、滝口さんが行くと、ニ室あるの内の一室が出来上がっていた。美術ボードや背景画を中心に、大量の絵がパネルやガラスケースに並べられ、見学者達を圧倒していた。宮崎監督直筆の説明書きが添えられ、美術の進行表や、1ヶ月352時間勤務したスタッフの出勤表まで展示していたのを見た田村さんは、「本当に苦労して作ったんだなあ」と改めて思ったそうだ。


09月22日(土)
プレビューに来館されたお客様からお礼状が美術館に何枚か届く。ダイレクトにお客様の反応を見たカフェ店長・堀口さんは、しばらくはがきを見つめ、「嬉しいね」と言ってカフェに向かった。


09月23日(日)
本日のプレビューは「三鷹市民デー」ということで、三鷹市在住の親子ペアを招待して行われた。
小さなお子様の多い日はやはりネコバスが人気だ。ネコバスに乗るだけでなく、山のようにいるススワタリのぬいぐるみを、その場にいる子で一致団結してネコバスの屋根の上に全部乗っけたり、中に全部入れたり、と子供ならではの遊びのルールが出来ているようだった。


09月24日(月)
ショップの人気商品のひとつはジブリのキャラクターで作られたあめ。
プレビューではたくさんのお客様でにぎわうショップだが、あめのコーナーでは行列ができてしまうことも。そんな中、あめの業者の森本さんが献身的に販売の手伝いをしてくれている。シャツに生成りのエプロン姿がなかなかお似合いだ。


09月25日(火)
柊瑠美さんと神木隆之介くんが、テレビと雑誌の撮影のために来館する。
展示作業がなかなか終わらないため美術館にいた宮崎監督が、二人を「映画の生まれるところ」の少年の部屋に案内することに。目をきらきらさせていろいろと質問する二人に、監督は嬉しそうに答えていた。


09月26日(水)
夜、スタッフが集って打ち合わせが行われる。明日の完成披露招待会や29日の財団設立総会、完成披露祝賀会と立て続けに行われるイベントに確認事項が目白押しだった。オープン前にスタッフが集まれるのもおそらく最後の機会なのだが、まだ現場での作業が残っていて、会議に出るのも時間が惜しいというスタッフも。


09月27日(木)
プレビューに続いて、夕方から完成披露招待会が行われる。これまでジブリ作品でお世話になった関係者の方々が多数来館した。一方、お祝いの花としてたくさんの方々から観葉植物が届いた。中でも「釜爺」の名で届けられた葡萄の樹が、おいしそうな実をつけて注目を浴びていた。


09月28日(金)
ネコバスの隣の部屋、通称「トライホークス」に宮崎駿館主による「ジブリ美術館工房」と看板が掲げられる。かねてから館主や展示スタッフがちょっとした作業をする部屋として重宝していたのだが、そんな様子までも当面の間展示することになる。ウインドウには山脇百合子さんによるのぞき箱「森のスタジオ」や、さまざまな展示物の試作品が飾られた。

地下1階展示室に建てられた「ジブリ・ハウス」の窓にジブリ作品の絵が飾られ完成する。急遽セル画を仕上げたのだが、なんとか間に合った。

パノラマボックスの絵も次々に完成。すべての箱に絵が入る。早速宮崎館主が色パラフィンで照明の調整。なんとか明日の祝賀会に備えることができた。


09月29日(土)
美術館を運営する「財団法人徳間記念アニメーション文化財団」設立総会が開かれる。それに続いて、およそ150人の関係者による美術館見学会と完成記念祝賀会が行われた。
これにて一区切り、といきたいところだが、未完成の展示物もあり、各部署の最終チェックが済んでお客様を迎えるまでは、気が抜けない。


09月30日(日)
泣いても笑ってもあと一日ですべての準備作業を終えねばならない。「ジブリ美術館工房」では宮崎館主と美術の太田さんがパノラマボックスの直し作業にかかり、2階のギャラリーではセル画の額装が急ピッチで進んでいる。果たして間に合うか?
地下1階最後の大物展示物、通称「鳥の塔」が搬入される。大きい上に重い。現場にいた男性陣がかき集められ、総勢21人が約1時間半がかりで地下1階に運び込んだ。

夜10時半、パノラマボックスの直しが終わり、いよいよ本当に完成。暗がりの中、カラフルに光る箱を「きれいだね」と、その場にいた人達が眺めていた。

同じ頃、ギャラリーの飾りつけ作業も終了。「コロの大さんぽ」の2メートル以上の長さのセル画をはじめ、およそ30点の絵が飾られ、「ギャラリーらしくなった」と館主。

夜11時58分、「鳥の塔」完成。「ぎりぎりセーフで間に合った」と館主を囲んで作業に携わった方々と拍手で喜び合った。腕を上げたポーズで立つロボット兵の周りを鳥が羽ばたきながら上昇する様を、皆でしばし鑑賞。これで展示物はすべて完成した。

本日をもって関係者受付で業務用の搬入・搬出の仕切りをしてくれていた日通さんが美術館を去る。
気の良い畑佐さんとおもしろいイラストを描く脇さんはじめ、日通の皆様たいへんお世話になりました。