西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.06 ラング童話に収録されたもの


 今回の展示で取り上げているアンドルー・ラングが編纂した世界童話集に収録されている438編のお話は、世界中、多岐にわたります。アンデルセン童話からの「雪の女王」や「おやゆび姫」があるかと思うと、グリム童話からも「白雪姫」や「ヘンゼルとグレーテル」のような代表作が収録されています。さらには、ガリバー旅行記から「リリパット国」(小人の国)のエピソードや、アラビアンナイトから「アラジンと魔法のランプ」のような話も収録されているのです。ヨーロッパ各国に伝わる物語はもとより、北欧、アフリカ、中央アジア、ロシア、インド、中国、インディアン(ネイティブアメリカン)に伝わるお話まで集められており、まさに、世界の覇権を握っていた英国でしか編集することができない童話集となっているのは驚くばかりです。当時の読者は、この本を読みながら、世界の異文化に思いを馳せ、異国情緒を満喫していたに違いありません。

 もちろん日本からも、お話が全部で13本収録されています。「浦島太郎」「かちかち山」「舌切りすずめ」「花咲かじいさん」「さるかに合戦」「ぶんぶく茶釜」などのだれもが知っている有名な日本昔話ばかりです。ただ、これらの昔話は「ラング童話集」が日本版として出版される折には、必ず割愛されてきました。たぶん世界童話としてはあえて収録する必要がないという編集者の判断があったからだと思うのですが、今回、原書を見てみたところ、記憶違いか、微妙に内容に違いがあるようでした。もともと、この種の作者が明確でない口頭伝承の昔話は、内容が微妙に変化しているので、なにが正解かは断じることができないのですが。その意味も込めて日本語訳で読みたかったと思っています。ただ、そこに添えられたフォードの挿絵だけは、原書を見れば楽しむことができます。今回の"挿絵展"にも「浦島太郎」と「かちかち山」の挿絵(とてもユニーク!)が展示されていますので、是非、会場で探してみてください。

 ひとつ引っかかっていることがあって、第5巻"The Pink Fairy Book"に収録されている「猫のかけおち」(原題:The Cat's Elopement)というお話についてです。あらすじを読むと、"ゴン"と"コマ"という二匹の猫がある夜桜の木下で出会い、一目ぼれするのですが飼い主の反対にあい、ついには駆け落ちし、お姫様に助けられて...というお話なんですが、なんだか日本の話っぽくないのです。現在、本やアニメーションなどになって親しまれている日本昔話はたくさんありますが、聞いたことのないお話です。残念ながら、今回の"挿絵展"では取り上げられてはいないのですが、なんだか興味が湧いてきて、もう少し調べてみたくなりました(笑)