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監督より皆様へ

観客のみなさんへ

 親愛なるみなさん!

 数年前に、私はイワン・シメリョフのすばらしい小説『愛の物語』を読みました。彼はこれを移住先のパリで1927年に書きました。ロシアに住まず、その空気を吸わないで、ロシアの作家がこのような小説を書く意味を、私たちが理解するのは不可能です。人がすべてを失ったことを想像するのは至難の業です。祖国、家、熱烈に愛していた息子を失い、貧困に喘いでいた人が突然初恋についての小説を書いたのですから。この対比が私をひどく驚かせました。

 この小説の文章には、ささやかな哀しみ、優しさとアイロニーがどれほど込められていることでしょうか! 純粋な愛を求める願い、ささやかな幸せへの思いが何と豊かにあふれていることでしょうか! しかも、迷妄を荒々しく払拭し去るフィナーレ!

 この作品を読みながら、ヒーローの内に自分自身を見出しつつ、私は笑って、泣いたのです。私は、この物語をスクリーンに投影させる誘惑から逃れることができませんでした。それがどれほどうまくできたものか分かりません。でも比較することは無駄なことでしょう。だって、映画は独自に生きている別ものですから。ましてや、このアニメーションは、ガラスに油絵の具で描いていく手法でできていますから。

 しかし、スクリーンに再現された絵画の調べを通して、創造された登場人物たちのジェスチャーや表情を通して、描かれた春の草木や、夏のにわか雨の流れを通して、あなたに、初恋の目もくらむ感覚が降り注ぐなら、過ぎ去った、あなたの思い出がよみがえるなら、私もスタッフも、この作品につぎ込んだ3年間を惜しいなんて少しも思わないでしょう。みなさん、どうかお幸せに!

アレクサンドル・ペトロフ

監督:アレクサンドル・ペトロフ

message_01.jpg1957年7月17日、ロシア、プリスタチャ生まれ。4才でヤロスラブリに一家で移り、そこの美術専門学校で4年間絵画を学び、かたがたグループでアニメーションを試作する。卒業後、モスクワのゼンソ映画大学に入学。アニメ画学部で、イワン・イワノフ=ワ—ノの講座をとる。81年、卒業と同時にウラルのスベルドロク(現エカテリンブルグ)の映画スタジオで、アニメーション美術を担当する。
ユーリー・ノルシュテインに師事した後、「雌牛」(89)を発表。90年オスカー賞ノミネート、第3回広島国際アニメーションフェスティバルグランプリのほか、パルナブルガリア、オタワアニメーションフェスティバル、ベルリン映画祭で受賞するなど、国際的な評価を得る。続く「おかしな人間の夢」(92)では、オタワ、タンペレ、エスピノ、ビラコンデ、広島など、世界各地のアニメーションフェスティバルで数々の賞を受賞。「マーメイド」(97)は、98年のオスカー賞2回目のノミネート。さらに、日本、カナダ、ロシアの国際共同製作となったIMAX作品「老人と海」(99)で、2000年の短編アニメーション部門でオスカー賞を初受賞する。
また一方では、世界のアニメーション作家35名が松尾芭蕉の俳句世界に挑んだ連句アニメーション「冬の日」(03)に参加し、文化庁メディア芸術祭受賞に貢献するなど、幅広い活動を行っている。
すべてガラス絵(ガラス面に絵の具で直接描き、部分的に消しては描き変えてゆく。背景と動画も分離されているため、作者には抜群の造詣的想像力、記憶力が求められる)の技法によるもので、その技術力と作品性の高さにより、世界中からの注目を浴びている。