本棚より[季刊トライホークス 2013年34号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

よあけ

作・画...ユリー・シュルヴィッツ 訳者...瀬田貞二 福音館書店 1,200円(税抜)

 ある夜のこと、あたりは寒く、空には月がぼんやりと浮かんでいます。岸辺では、おじいさんと孫が木の下で眠っています。だんだんと空が明るくなると、2人は目を覚ましてボートに乗りこみ、湖へとこぎ出しました。夜が明けると、目の前には色鮮やかな世界が広がります。

 この絵本は、やさしい言葉と描き込みの少ない絵で表わされています。題材も湖畔の夜明けという毎日くり返されるものであるのに、強く心が動かされるのはなぜなのでしょう。どのページも余白が大きく取られているために絵のスペースが限られていますが、夜の静けさや朝の気配といったかすかに感じられるものを、読み手にはっきりと伝えています。そして読み終えたあとには、不思議な余韻が残ります。

 作者のユリー・シュルヴィッツは、1935年にポーランドで生まれ、ナチスドイツの侵攻により故郷を離れ世界各地を転々とし、厳しい生活をおくったといいます。やがて東洋思想や美術に関心を持つようになり、本作も唐時代の詩がモチーフになっています。シュルヴィッツはまた、余白の使い方に関して中国や日本の古典美術から影響を受けた、とも語っています。

 言葉と絵、そして余白の絶妙な組み合わせで生まれた静かな世界。こんなに惹かれるのは、作者と読み手の中に、同じものが流れているからなのでしょう。そう感じると、さらに愛着のわく1冊です。

タチ はるかなるモンゴルをめざして

著者...ジェイムズ・オールドリッジ 訳者...中村妙子 評論社 1,800円(税抜)

 「タチ」は、モンゴルの蒙古野馬につけられた名前です。絶滅したと思われていた蒙古野馬を、ある時ひとりの少年が見つけます。彼はそのうちの一頭、若い牡馬に「タチ」という名前をつけました。タチは群れの中でも一番大胆で、気が荒く、かしこく勇敢でした。けれど、珍しい野馬を保護するという目的のためにタチは捕らえられ、イギリスに送られることになったのでした。

 物語は、モンゴルの少年バリュートと、タチが送られたイギリスの保護地にいる少女キティの手紙によってすすめられます。タチは、新しく伴侶になったポニーの「ピープ」を連れて、保護地を脱走してしまいます。いったいどこへ行ったのか? タチの消息が少しずつですが、バリュートとキティにも届くようになります。驚くことに、タチが向かっているのは故郷「モンゴル」でした。

 バリュートとキティは、タチに関するお互いの情報を手紙でやりとりします。そこには、どんな困難にも屈せず、強い意志で、ピープを気遣いながら、ただただ故郷に戻ろうとするタチの姿がありました。故郷をめざすタチと、タチを思うバリュートとキティ、そしてタチをめぐる多くの人々。人にも様々な立場があって、物の見方も考え方もひとつではありません。それが物語を深く、豊かにしつつ、タチのひたむきな姿が二人のみならず、読む人の心をゆさぶり、旅が無事に終わることを祈らずにいられないのです。図書室ではなかなか手に取られることの少ない地味な本ですが、おすすめしたい本です。

季刊トライホークス 34号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
山口マオ さん。34号では、「わにわに」シリーズでおなじみの山口マオさんに本の紹介をしていただきました。図書室においてある『わにわにのおふろ』(福音館書店)は子どもたちに大人気。「あ、わにわにだ!」図書室に入るなり本を見つけ、すでに知っている本だけれど、夢中になってページをめくっています。 今回、山口マオさんが選んだのは7冊の絵本。『じごくのそうべえ』(童心社)、『ぶたぶたくんのおかいもの』(福音館書店)など、楽しい絵本がいっぱいです。「わにわに」の絵本と一緒にたくさん手に取って読んでもらいたいと思います。
連載「アーサー・ランサム(第2回)」
ランサムの代表作『ツバメ号とアマゾン号』(岩波少年文庫)を取り上げています。この本は宮崎駿監督のおすすめの1冊でもあります。イギリスで出版されたのは1930年。シリーズ全12冊。イギリスでも日本でもたくさんの人がこのシリーズに夢中になりました。4回にわたって作家と作品について紹介していきます。
山猫だより「写し絵で遊ぼう!」
今年の夏、美術館では「ジブリの森のレンズ展」開催に合わせ、光とレンズをテーマとした夏のイベント「写し絵で遊ぼう!」を行いました。今回はそのイベントの模様をお伝えします。