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イントロダクション

恋をする。

16才の少年アントンが好きになった相手は
同じ年頃の少女パーシャと、
そして、もうひとり・・・25才のセラフィーマ。

アカデミー賞受賞監督アレクサンドル・ペトロフが
ロシアの文豪ツルゲーネフに捧げる、
甘くて残酷な思春期の物語。

introduction_01.jpg三鷹の森ジブリ美術館
第一回提供作品
「春のめざめ」

思春期の少年が夢想する“聖”と“俗”の世界を描いた文学的作品

introduction_02.jpg 思春期の少年は女の子のことで頭がいっぱい。理想の女性を想像し、勝手な恋愛模様を夢想する。当然、性的なものにも興味を持ち、大人の世界を盗み見るようになる。しかし一方で、純粋な心を失わず自らの尺度をもって理想とし、大人たちの不条理な言動に激しく反抗する。大人の世界をいい加減で、汚らしいものと決めつけ、自らの理想のままに一途になって突っ走るのも思春期の少年の特徴だ。
主人公の少年アントンも、そんな思春期の少年。19世紀末、ロシアのとある町。16才になるアントンは、ツルゲーネフの『初恋』を読み、女主人公ジナイーダに夢中になった。そして、自分自身の恋を夢見て想像を膨らませていく。

 そんなアントンに彼の家に住み込みで働く少女パーシャが思いを寄せていた。彼女は貧乏な孤児だったが、可憐で愛らしく献身的にアントンに尽くす。アントンは「彼女となら身分の差を越えた本物の恋ができるかもしれない」と想像する。一方でアントンは隣の家に住む25才の令嬢セラフィーマに出会い、恋をする。「彼女はまさに女神だ!」と。こうして彼は年齢も境遇も違う2人の女性に向かって性急に行動を起こすのだった。

 身の回りの大人たちの俗物さを尻目に見ながら、恋愛とは神聖なものだと信じるアントン。しかし、思春期の少年が初めてする恋は、無鉄砲で身勝手。本人の真剣さとは裏腹に浅はかで危なっかしい行動がやがて様々な事件や悲劇を引き起こしていく。
そして、二人の女性の現実の姿に触れたとき・・・。アントンは、初恋を通じて“聖”と“俗”が入り混じる現実の大人の愛を体験する。

油絵が動く!~淡く甘い筆致で描かれた二人の女性がリアルに動く~

introduction_03.jpg 淡い色彩で移ろいゆく瞬間をキャンバスに描きとめたといわれる印象派絵画。そんな美術館で鑑賞するような油彩画が、スクリーン上で感情豊かに動き出す。作品を見た誰もが、まずはその美しさに圧倒されるだろう。

introduction_04.jpg 主人公アントンが恋をする二人の女性、パーシャとセラフィーマはまるでルノアールの絵画から抜け出してきたように甘く、淡い色調で描かれている。青を基調とする風景のいくつかはモネの風景画を彷彿させる。一幅の絵として十分に耐えうるこれらの絵が、しかもリアルに動くのだ。
この技法は、ガラス絵手法と呼ばれ、透明のアクリル板に油絵具で直接絵を描き、変化する部分を消したり付け足したりして、動く映像を完成させていくというもの。アニメーションにも様々な方法や表現がある中で、膨大な時間と手間のかかるのがこの技法。 いわゆるセルアニメーションとはまったく異なったこの表現方法が、作品に見応えのある迫力をもたらしている。

 そして、この動きこそ思春期の少年のめくるめく心象風景を鮮やかに表現している。妄想は風景となり、風景は愛しい人へと続いていく。恋をした人にしか見えないそんな景色が美しい油絵で綴られている。

三鷹の森ジブリ美術館が紹介する世界のアニメーション第一弾は、「老人と海」でアカデミー賞に輝いたアレクサンドル・ペトロフ監督の最新作

introduction_05.jpg 三鷹の森ジブリ美術館が世界のアニメーションを自ら配給して紹介する事業を始めた。ジブリ美術館は2001年の開館以来、企画展示や講演会などのイベントで、アニメーション作品とその作り手である作家やスタジオを紹介することを活動の一つにしてきた。しかし、世界には多くの人がまだ目にしていない良質なアニメーション作品が沢山ある。高畑監督や宮崎監督が若き日に影響を受けた作品、日本では知られていないが、世界で高い評価を受けている作品など、そういった新旧問わず面白い作品をより多くの人に届けるべく、自ら配給活動を行って見てもらう機会を作っていくことにした。その第一弾がこの「春のめざめ」。

introduction_06.jpg 監督は、前作「老人と海」(99)でアカデミー賞短編アニメーション部門賞を獲得した、ロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督。高畑・宮崎両監督と古くから親交のあるロシアのアニメーション作家、巨匠ユーリー・ノルシュテインの門下生であり、その縁あって今回ジブリ美術館の配給作品第一弾となった。
ペトロフ監督は、油絵を用いた独自の表現スタイルで、深みのある作風を確立している。油絵アニメーションでここまで完成度の高い作品を残しているのは、世界中を探してもアレクサンドル・ペトロフ監督以外に例がない。「老人と海」以前の「雌牛」(89)、「おかしな男の夢」(92)「マーメイド」(97)も、世界の映画祭で受賞するなど、国際的な評価が急速に高まっている作家である。

平成18年度(第10回) 文化庁メディア芸術祭
アニメーション部門 優秀賞受賞

第11回 広島国際アニメーションフェスティバル
観客賞/国際審査員特別賞受賞