西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.10 三人の挿絵画家【弐】


 前回は、フォード以外のふたりの画家についてお話しました。今回はいよいよ、ラング童話集のほとんどの挿絵を20年間にわたって描き続けた画家、ヘンリー・ジャスティス・フォードについてご紹介したいと思います。

 経歴を見ると、ヘンリー・J・フォードは、ケンブリッジ大学で古典学を学び、のちにスレイド美術学校というところで絵画を学んだのだそうです。友人であるエドワード・バーン=ジョーンズの影響で、"ラファエル前派兄弟団"の作風がみられるのだそうです(「挿絵がぼくらにくれたもの」展パンフレットより)。

 美術史に詳しくない方はあまり聞いたことがないかもしれませんが、"ラファエル前派兄弟団"とは、一体どういうものなのでしょうか。資料によると、アカデミー付属美術学校の学生だったウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・ミレイ、ダンテ・ガブリエル・ロゼッティらが1848年に秘密裏に結成した美術運動で、当時の主流であったアカデミーの画風である、(ルネサンスのイタリアの三大巨匠画家であった)ラファエロの調和のとれた古典的様式美ではなくて、それ以前の素朴で自由な作風を取り戻そうという志なのだそうです。若い彼らの作風としては、宗教画よりも神話や文学をテーマにし、キャンバスの細部まで緻密な描写を行ない、画面の隅々まで均等に光を当てているところに特徴があるのだそうです。もっと噛み砕いていうと、演劇や映画の一場面を写真で切り取ったような作風を目指したといっても間違いではないのかもしれません。

 このような"ラファエル前派"の作風を説明していて、まさに、フォードの作風のことが浮かび上がってくるのに驚きました。世界の童話の一場面を切り取って膨大な挿絵を書き続けたフォードは、確かに"ラファエル前派"の影響を受けているといって良いでしょう。ジェイコム・フッドやスピードに比べ、背景を含む細部まで緻密に描き込まれているのがフォードの一番の特徴ですから。
s120807a.jpg「ヘンリー・J・フォード"The Comb and the Collar", The Olive Fairy Bookより」

 ただ、フォードの特徴はそれだけではないところに、今回の展示でフォードを取り上げている意味があるのかもしれません。(この回、続きます)