西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.46 忘れられない挿絵たち【参】 あのキャラクターのご先祖様 


 今週は、フォードの挿絵の中から、ファンタジーにはつきものの異形の姿をした登場キャラクターをご紹介します。なんだか現代のファンタジーに登場しそうなものから、ちょっと意外な姿まで、見ていて飽きることがないのが、フォードの挿絵のすごさです。

s130417a.jpg「画:ヘンリー・J・フォード"The Prince who wanted to see the World", The Violet Fairy Bookより」
 これは、人面をもった鳥です。人面犬とか人面魚というのは皆さんもよくご存知だと思いますが、ファンタジーには人面鳥というものもしばしば登場します。ただ、このように美しい顔を持った鳥というものは悪魔の使いのような不気味な存在が多いのですが、この童話集のお話では、魔法で鳥の姿に変えられたお姫さまが一瞬だけ元の姿になるシーンのようです。悲しげな顔が印象的で、宮崎監督もコメントしているように大変心に残る一枚だと思います。ちょっと可愛いと思いませんか?

s130417b.jpg「画:ヘンリー・J・フォード"The Little Soldier", The Green Fairy Bookより」
 いうまでもなく、西洋の"ろくろ首"に見えます。でも実はこの怪物、"女の顔を持ったヘビ"なのだそうです。人面蛇とでもいいますか。そして、やはり魔法で姿を変えられたお姫さまが正体です。いろいろ探してみたのですが、西洋にはろくろ首のような化け物は存在していないようです。ただ、夜のシーンで"松明に浮かび上がる長い首"となると"ろくろ首"を連想して怖くなってしまうのが日本人なのですね。海外の読者はこのキャラクターをどう見るのか、聞いてみたい気もします。

s130417c.jpg「画:ヘンリー・J・フォード"Jack and the Beanstalk", The Red Fairy Bookより」
 これは一つ目の巨人です。有名な"ジャックと豆の木"のお話なので、皆さんもよくご存知だと思います。こういう妖怪は日本だと、"一つ目小僧"が有名ですが、女性の一つ目はなかなかお目にかかれません。たくさんの目があるよりも、ひとつ目でじっと見つめられる方がこわく感じるのは、不思議ですね。

s130417d.jpg「画:ヘンリー・J・フォード"Minnikin", The Red Fairy Bookより」
 これは、タコ人間みたいですね。ベルギーの"ミニキン"というお話に登場するトロールです。トロールとは西洋の体の大きな妖精というか怪物のことです。全身がうろこで覆われていることから、海の中で暮らしていそうな気配が漂っています。それを考えると、あのヒット映画シリーズに出てくる幽霊船の船長の元祖のような気もしてきます。ここでも、通俗文化のバトンは渡されているのでしょうか。

 この連載ではこのところ、そんな難しいことを考えなくても良い楽しい挿絵の数々を紹介しています。ぜひとも、会期残り少なくなった挿絵展会場で、あなたも色々つっこみながら挿絵の数々を見てみませんか?