西岡事務局長の週刊「挿絵展」vol.48 「夏目漱石の美術世界展」に行ってきました  


 今回は、ゴールデンウィーク特別企画です。休みを利用して、広島県立美術館で開催中の"夏目漱石の美術世界展"に行ってきました。
 そもそも、この美術展を見たいと思ったのは、この連載をお読みの方ならわかると思うのですが、企画展示「挿絵が僕らにくれたもの展」の「ぼくの妄想史」コーナーが、宮崎監督が夏目漱石の足取りたどって、イギリス絵画の影響を受けた明治時代の画家たちの苦悩を解説したものであり、その漱石が目にした絵画を集めた本格的な展覧会が開かれるとあっては、見過ごすわけには行かなかったからです。

 大型連休の初日、広島駅から徒歩15分の広島県立美術館を訪ねます。縮景園という名所のお隣で、たくさんの緑に囲まれた静かな美術館でした。
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 会場は3階でした。まず入口で写真を撮って中に入ろうとしたら、「良い写真は取れましたか?」と笑顔で声をかけられてしまいました。ちょっと恥ずかしいです。
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 当然のこと、会場内は撮影禁止です。会場内の写真はないので、ここからは、展覧会を見てから考えたことをあれこれ書いてみます。

 夏目漱石という人は、日本を代表する文豪ですが、本当に美術が好きだったようです。少年の頃は南画の水墨画や掛け軸に親しんだとか。そして欧州留学中はたくさんの西洋絵画、それも当時盛んだったラファエル前派のイギリス絵画を好んだそうです。帰国後は、同時代のたくさんの画家たちと親交を深める中、ある時は作品を褒め上げ自著の中で取り上げたり、ある時は厳しい口調で叱咤激励したり、その生涯は終生、美術評論家でもあったようです。晩年は南画や水彩画を自ら描いていたようですが、残された作品を見ても、決して上手だとはいえないように思います。そういえば、1914年発表の「こころ」では自著の装丁も手がけていて評価もされているのですが、次作の「道草」では津田青楓の手に委ねています。
 会場全体には、そんな漱石が見た、かかわった、評論した、小説で取り上げた絵画がずらりと並んでいました。その中では、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの"シャロットの女"と"人魚"が、ひときわ存在感を示していました。"シャロットの女"は全部で3枚あり、今回日本に来たのは、その二番目に描かれたものです。腰をかがめて鏡を覗きこむポーズを取った作品で、宮崎監督が衝撃を受けた一番目の作品とは違います。ただ、ラファエル前派の作品の圧倒的な質感は見るものを釘づけにします。たくさんの日本画の中で見るイギリス絵画は、やはり圧倒的でした。
 また、たくさんの本の装丁の展示も見所です。そこに記された図版や記号は、まさに通俗文化の萌芽、のちのマンガに通じる記号化や省略化が行なわれていました。こうしたモダンな感覚を積極的に取り入れたことが、漱石が後世に残した大きな功績だったようにも感じました。
 
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さて、会場を出たところにあるのが、物販コーナーです。今展覧会のために作られたオリジナルグッズや、漱石の関連グッズや書籍、猫グッズ、Tシャツなど、たくさん販売されていました。なぜか、羊羹や金太郎飴もあります。見てるだけでも楽しかったです。とはいえ一番のオススメは、やはり図録でしょう。
s130430d.jpg"図録 定価2300円(税込み)"
会場に展示されている絵はもちろん、他会場でしか見られないものや、参考絵画も収録されています。展覧会をより理解するためには必携だと思います。

"夏目漱石の美術世界展"は、広島県立美術館では5月6日(月)までの開催となります。
そのあと、東京藝術大学美術館で5月14日(火)~7月7日(日)、静岡県立美術館で7月13日(土)~8月25日(日)の日程で巡回される予定です。
(この展覧会にはスタジオジブリもジブリ美術館も一切かかわっていません。今回取り上げたのは、本当の好奇心からです。ご了承ください)