本棚より[季刊トライホークス 2015年41号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

しゅっぱつ しんこう!

さく...山本忠敬 福音館書店 800円

 子どもたちは、大きくて動く乗りものが大好きです。飛行機、消防車、救急車や電車など、サイレンが鳴っていてもおかまいなしで、見つけた途端に大喜び。もちろん大人でもその魅力のとりこになっている人もいます。この本は、そんな純粋な乗りもの好きの心をつかむ1 冊だと思います。

 お話のなかで列車に乗るのは、おかあさんとみよちゃんです。二人は特急電車に乗って都会を出発しました。山のふもとの町に着くと急行列車に乗り換えます。川を超えて山の中の駅に到着すると、今度は普通列車に乗り換えます。特急列車、急行列車、普通列車へと乗りかえるたびに力強い「しゅっぱつ しんこう! 」の合図が汽笛とともに聞こえます。さらに山の奥へとトンネルをぬけると、おじいさんの待つ駅に到着しました。

 物語も言葉もとてもシンプルです。けれども、電車を乗り換えるたびに聞こえる「しゅっぱつしんこう! 」と、窓の外に流れる風景が、乗りものに乗ったときに感じられる、わくわくとした気分を思い起こさせてくれます。山本忠敬さんは、乗りものの絵本を多く手がけ、『しょうぼうじどうしゃ じぷた』など人気作がいくつもあります。絵を完成させるまでに多くの下調べやスケッチをしていたそうですが、この本に出てくる列車も種類がわかるほど正確に描かれています。本書では文章と絵の両方を担当されました。そんな作家さんだからこそ、シンプルに表現しても、乗りもの好きに響く作品が作れるのだと思います。

海の島 ステフィとネッリの物語

著者...アニカ・トール 新宿書房 2,000円 『睡蓮の池』『海の深み』『大海の光』(全4部作)

 第二次世界大戦初期、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため、500人の子どもたちが、親元を離れスウェーデンにやってきました。ウィーンの裕福なユダヤ人家庭で育ったステフィとネッリの姉妹も、スウェーデンの都市イェーテボリの西にある小さな島に住むことになりました。アメリカへの移住の目処がたったら、また再び家族一緒に暮らせるはずだったのです。島に着いた二人は、別々の養い親に引き取られます。8歳の妹ネッリは、すぐに周りの環境になじみましたが、12歳のステフィにとって、言葉も宗教も違う中、厳格で質素な養家での生活、学校でのいじめなど、島の生活は辛いことが多いものでした。けれど、他に行くところもなく、ここで生活するしか道はありません。どこまでも続く空と海、"この世の果て"と呼んだこの場所は、ステフィにとってどんな場所になっていくのでしょうか。

 4部作からなるこの物語の中で、12歳だったステフィは、最終巻では18歳に成長しています。幼かったネッリもステフィとはまた違った形で、自分の居場所に不安を抱えるようになっていきます。物語を読んで思うのは、子どもたちの上に覆いかぶさってくる太刀打ちできない現実です。もう二度と昔には戻れないとわかっている状況で、何を思い、何を選ぶのか。二人の成長と葛藤とともに、周りの人々との関わりが丁寧に描かれており、改めて、人はひとりではなく、いつでも、どこであっても、誰かと関わりあいながら生きていくのだと思いました。

季刊トライホークス 41号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
図書室では『完訳 ファーブル昆虫記』(集英社)の翻訳書としておなじみのフランス文学者・奥本大三郎さんに「夢中になって読んだ本」を教えていただきました。昆虫にも詳しい奥本さんですが、どんな本を読んで大きくなったのでしょう。これを機会に、奥本さんのエッセイを読むのも楽しいと思います。
連載「E.L.カニグズバーグ」
二年前に亡くなったアメリカの作家E.L.カニグズバーグと彼女の代表作を、1年間にわたり取り上げます。本号ではカニグズバーグの出世作『クローディアの秘密』を紹介し、作品の背景にも触れています。
山猫だより「次は『幽霊塔』!」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。2015年度の企画展も、昨年から引き続き"本"が関係しています。江戸川乱歩の『幽霊塔』を中心に、後を追うように、読む、調べる、といった企画展の準備が始まりました。