2001年10月


10月01日(月)
いよいよオープンの日を迎えた。セレモニー等は一切やらない、これまでどおりの運営とはいえ、ホールでのミーティングに集ったスタッフは皆どこか緊張気味。「皆さん顔がこわばってます。大きな声で笑いましょう」と宮崎吾朗館長の掛け声で、堅いムードを笑って吹き飛ばした。

午前10時開場。宮崎駿館主もケーキハウスでお客様を握手でお迎えした。
あいにく雨だったり、多数のマスコミ取材が入ったり、鈴木プロデューサーがホールでサイン攻めに遭うなど、大変な場面もあったが無事に初日を終えることが出来た。


10月02日(火)
初日に比べていくぶんか落ち着いた雰囲気の二日目。昨日の握手攻めで疲れきったはずの宮崎館主が、休養中にもかかわらず「工房」に顔を出す。展示の強化と次の企画展を構想しようとしたのだが、今度は写真攻めに遭っていた。


10月03日(水)
関係者の方に差し入れをいただくことが最近多いが、朝、休憩室に山のようにお菓子などが置かれていても、夜にはほとんど残っていないことが多い。
若いスタッフが多いからだろうか、吾朗さんも食料の減りの早さには驚いていた。


10月04日(木)
閉館後、手の空いているスタッフ総動員で、たくさんの方々からいただいたお祝いの観葉植物を館内のいたるところに配置した。名づけて「ジャングル・ジャングル大作戦」。

一方、お祝いの花も大城さんの仕切りで切り分けて、バックヤードに飾ったりスタッフに配ったり。花と緑があちこちに広がって気分がいい。


10月05日(金)
この日好評だった、パティオの手こぎポンプを担当した運営スタッフK君の業務日報より、「パティオの井戸くみの順番をめぐってケンカしそうな子ども達を発見。この原因の子は今までで一番人懐っこく、僕の手を引き、薪割り小屋でサルの話をしてくれた」
美術館にかかってくる問合せはテレビやラジオのオンエア直後が多い。例えば広報が関西地方のラジオに出演すると、関西弁の電話が一気に増える。対応していた佐々木さんはその反響の素早さに感心していた。


10月06日(土)
日本テレビ「ズームイン!! サタデー」で、美術館特集がオンエアされる。昨晩の深夜から機材の設営を始め、クレーン装置や6台のカメラを導入した大規模な生中継だった。半年間美術館に通って取材や撮影をし、この日をむかえた担当の上田さんは、機材を撤収し終えたあと、さっぱりとした顔をして美術館を去っていった。


10月07日(日)
ショップに飾っている「風の谷のナウシカ」に出てくる虫の標本(まだ商品化はされていません)を見て、そのリアルさに驚いたお客さまが「気持ち悪くていいですね」と言ったあと、「細かいところまで凝っていますね」とショップについて嬉しい感想を残してくださった。塩島店長は「努力がむくわれた…」と涙。


10月08日(月)
大雨が降り、おまけに雷も鳴るという悪天候のため、2階テラスからロボット兵のいる屋上へ行くらせん階段が一時的に閉鎖された。ずぶ濡れになったスタッフも館内へと避難。とんだ連休の最終日であった。


10月10日(水)
朝から冷え込んでいたこの日、「新聞はありませんか?」と宮崎館主が突如 2 階事務所に現われ、新聞を持ってカフェへと向かった。カフェにある薪ストーブに館主自ら薪を入れ、新聞を使って焚きつけると、あっという間に新聞紙が燃え、薪に火が点きカフェ内が暖かくなった。こうして開館して初めて薪ストーブが使用された。


10月11日(木)
ステンドグラスを制作した八田さんが来館する。閉館後、中央ホールでスタッフにステンドグラスの説明をしてくれた。八田さんはステンドグラスの作り方から、描かれている草花の模様一つ一つを2時間以上かけ、丁寧に教えてくれた。総勢22名のスタッフがこの講習会に参加し、その仕事のこまやかさに溜息を洩らしていた。


10月15日(月)
美術館を運営する財団法人「徳間記念アニメーション文化財団」に関するミーティングが行なわれた。事業内容やそれぞれの役割などを再確認する中、突如三好さんが席を離れ駆け出していった。なんでも、展示物の補充作業をしていた宮崎館主に届けるはずだった動画を忘れていたため、カミナリが落ちる前に車を飛ばして3スタまで取りに行ったそうだ。結局、三好さんが戻ってきたと同時に会議は終了。財団学芸員の先が思いやられる一幕だった。


10月16日(火)
どこからかススキを持ってきた北嶋さんが、休憩室で花と一緒に花瓶に挿して熱心にアレンジをしていた。秋を感じさせる花瓶は地下一階のトイレに運ばれ、次の日お客さまの目を喜ばせることになるだろう。

休館日を利用して各展示物のメンテナンスが行われた。特にあちこちに穴が空いたり凹んだりしていたネコバスは、丸一日がかりの修繕作業となった。


10月17日(水)
地下一階展示物のコーディネイトをしてくださったメディア・アーティストの岩井俊雄さんが、ハイビジョン放送のテレビ番組収録のため来館する。高さ2m以上もある巨大縦型ゾートロープ「上昇海流」を解体して内側の様子も撮影するため、エンジニアの松原さんたちを呼んでの作業となった。撮影では、慣れた様子で作品を解説するだけでなく、その場でアイディアを出して仕切るなど、岩井さんのディレクターさながらの活躍ぶりに、立ち会ったスタッフは圧倒されていた。


10月18日(木)
橋田さん、田村さん、机さんで広報戦略会議を美術館の事務所で行う。思いつきでいろいろと壮大な企画案が出される中、「ヨーヨー・マ」にトピックが移ったとき、「ヨーヨーマンって誰? お笑い芸人?」と、田村さんがボケぶりを発揮。その場に居合わせたスタッフまで笑わせていた。その後、インターネットで「ヨーヨー・マ」を一生懸命調べる田村さんであった。


10月19日(金)
閉館後、宮崎館主による展示のレクチャーが行なわれる。館主自らが行うレクチャーは初めてのことで、職員・アルバイトを含めた美術館のスタッフ、図録編集スタッフ総勢44名が参加した。展示室の内容を中心に、美術館に対する思いや果ては現在のアニメーション事情にまで話が及び、熱心に話してくれた館主も、必死に聞いていたスタッフも、莫大なエネルギーを消費した2時間半であった。


10月21日(日)
吾朗館長にかわって財団事務局長の西方さんが初めて開館の鐘を鳴らす。ところが鐘をいきおいよく振りすぎたのか、中の玉が落ちて壊れてしまい、それを見ていたお客さまに「あ、壊した」と叫ばれてしまったらしい。しかし西方さんは冷静に任務を果たし、その後事務所できちんと鐘を修理。「俺、オリジナルの鳴らし方ができるように頑張るよ」とめげることなく燃えていた。


10月22日(月)
この日お誕生日を迎えたお客様がカフェにいらっしゃったので、キャンドルサービスとともに「ハッピ-・バースデイ」を歌った店長の堀口さん。声が裏返ってしまって恥ずかしかったらしいのだが、歌の後に店内から拍手が沸き起こり、店中でお誕生日を祝ったようになった。


10月23日(火)
美術館の建設に携わった鹿島建設の紙山さんが、とある雑誌の「イケてるサラリーマン」なるコーナーの取材で来館する。仕事での苦労、喜び、家族への思いなどを語ったあと、写真撮影。「何か寂しい感じがするから」ということで、ヘルメットと足元に生えていた「猫じゃらし」を持ってポーズを撮るという、ちょっと変わった撮影となった。


10月24日(水)
更新用に作った地下一階ゾートロープの絵に宮崎館主による修正が入る。正確にクリーンナップするには、円をきっちり25分割した枠を絵に引いておかないとできないので、三好さんが分度器とにらめっこ。14月04度という半端な数字に頭を痛めていた。


10月25日(木)
地下1階常設展示室にある縦型ゾートロープ「上昇海流」を見た絵本作家さんが、涙を流したそうだ。ロボット兵の手をすり抜けて天へと上っていく鳥たちの姿に、大変感動したとのことで、こちらまで嬉しくなった。


10月26日(金)
各部署から代表者が集まって、今度のクリスマスに向けて何をするか話し合う。
ホールに巨大ツリーを立てようだとか、盛田さんにサンタになってもらおうとか実現しそうにない案も交えながら、ジブリ美術館らしいやり方はどういうものなのかいろいろいろいろ意見を出し合った。


10月27日(土)
次の企画展の準備がほんの少しづつではあるが始まっている。本当は開館直後から本格的スタートを切りたいところなのだが。会期が始まっても展示室でスタッフが作業をしているという悪夢がまた繰り返されるのでは、と早くも囁かれている。


10月28日(日)
服装がいつも「おしゃれさん」な総務・小林さん。この日履いていた先の細くてヒールの低い靴も、女性スタッフから「かわいい」と評判になる中、橋田さんは 「蹴られたら痛そうだなあ」と弱気に呟いていた。


10月29日(月)
塩島店長主催によるショップ作戦会議が行なわれる。宮崎館主、吾朗館長、鈴木プロデューサー、盛田マンマユート団団長、ジブリ商品部、ショップ社員らが一同に会した。塩島さんはこの日のために考えていた商品企画案を披露。一ヶ月間ずっと毎日ショップ閉店後に練っていたものだ。採用されたものもあれば、ボツになったものも。「頑張ったねえ」と労われたり「店長やりながら企画なんて無理だ」と言われたりしたが、塩島さんは手ごたえを感じたそうだ。


10月30日(火)
取材のために、外国人の子どもモデルさんが来館し、館内で撮影が行なわれる。
ネコバスはちょうど修理中のため撮影はできなかったが、モデルさんがネコバスを見たとたん、顔色を変えて走りよって抱きついていた。「ネコバスの魅力は万国共通なんだ…」と取材に立ち会っていた机さんは思ったそうだ。
・2階ギャラリーに飾られているセル画に「コロの大さんぽ」が10点ほど加わった。
少し寂しい感じがした壁もにぎやかになったかと思いきや、館主は「飾っても飾っても足りない。ブラックホール状態だ」と困惑気味だった。


10月31日(水)
カフェに置くスノコに色を塗るため、北嶋さんがJマートへ赤いペンキを買いに行く。早速色を塗った北嶋さんは、我ながら「なかなか素敵」と思ったそうだ。赤いスノコは現在カフェの厨房で活躍している。