西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.24 イワン・ビリービン【四】 飾り枠にこだわる


 イワン・ビリービンの作品の特徴のひとつに、とてもセンスのいい"飾り枠"(もしくは、"縁飾り"ともいう)があると思います。作品を取り囲むようにレイアウトされた飾り枠には実にさまざまなものが描かれているのです。抽象的なパターンもよく見られるのですが、特徴的なのは植物や動物の図柄でしょう。イラスト的に簡略化され、左右対称だったり、パターン化して繰り返すことによって、それ自身が描写ではなく、中央に描かれた作品を飾る存在として見る者に認識させることに成功しているのです。
 ビリービンは、絵本のひとつひとつのページのレイアウトにこだわっていて、ページ自体がひとつの完成作品のように描いてきました。作品の配置、飾り枠だけでなく、飾り文字などもすべて自身で描いていたのです。あたかも他人の意志が入ることを拒絶するかのように、作品世界を完成させていたのでしょう。

ここからは、その飾り枠の例を一部ご紹介したいと思います。
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 これらは、抽象的なパターンを描いたものの一例です。ただ、ビリービンはほとんどの場合、物語のストーリーにあわせてパターンを描いているので、実は何か象徴的なものをパターン化したものなのかも知れません。

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 植物を題材にした飾り枠の例です。植物を繰り返し描くと、以前取り上げたウィリアム・モリスを思い出させます。取り上げている植物はロシアの風土のもので、物語の舞台を表現するのにも役立っています。なかでも、三番目に描かれているのはキノコで、このようなものが飾りになるなんてと宮崎監督もその大胆さに驚いたのだそうです。

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 こちらは、鳥や魚です。もちろん、本編の話に出てくるキャラクターをパターン化しています。だんだんとユーモラスな表現になってきていますね。現在流行している"ユルキャラ"に通じるものさえ感じます。
注目して欲しいのは、下の飾り枠です。
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 これはヤギを描いているのですが、なんだか"アルプスの少女ハイジ"のエンディングを思い出しませんか。ヤギもパターン化すると立派な飾り枠になります。そういえばアニメーションのエンディングでも、ヤギが飾り枠のような効果をあげたレイアウトが切られていましたね。