西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.12 みんな大人の世界


 改めて、展示されている挿絵を見ていると気づかされることがあります。それは、描かれているキャラクターは、乙女と勇者、そして、モンスターばかりだということです。つまり、物語の主役はみんな大人なのです。ごく一部に子どもが描かれているとしてもそれは、さらわれたり襲われたりする対象としてであって、決して物語の進行役ではありません。会場内の宮崎監督のコメントにも「挿絵の王子さまやお姫さま達は、みんな大人です。王子さまにはヒゲがあったり、お姫さま達は胸高く、すらりたおやかです。」と述べられています。

 よく考えてみると日本の昔話でも、決して子供たちが主役だったわけではありません。"浦島太郎"は青年ですし、"桃太郎"だって少年の姿をイメージしてしまうのは後に作られた人形などのイメージによるもので、初期の物語では、鬼退治に出かけるのは立派に成長した大人の桃太郎だったようです。もちろん、"花咲かじいさん"や"舌切りスズメ"や"カチカチ山"などは、いうまでもなく年寄りが主人公です。ただ、戦後に生まれた漫画やアニメーションのヒーローアクションでは、明らかに子どもが主人公のケースが増えてきます。"鉄人28号"の正太郎少年しかり、"少年探偵団"しかり。"狼少年ケン"や"風のフジ丸"も。それは、戦争によって大人が極端に少ない時代であったことも理由のひとつですし、大人は日々の生活のために働くことを強いられていたために余裕がなく、比較的自由に冒険に身を投じることができるのが、子どもだけだったからという理由にも因るようです。確かに、親の庇護のもとでは冒険はさせてもらえませんよね。宮崎監督の"千と千尋の神隠し"で千尋の両親が早々に豚の姿になってしまうのは、千尋がひとりで冒険の世界に出かけるためなのです。

 話はラングの童話集の挿絵に戻りますが、19世紀のイギリスでも、物語の登場人物は大人であったことは間違いなく、当時の英国の子どもたちはそれをワクワクして読んでいたのでしょう。いつか自分も大人になって冒険の世界に飛び込みたいと。子どもがやって良いことと、できないことがきちんと決められていた時代のお話です。当時の子どもたちは「早く大人になりたい」と憧れたものでした。

s120821a.jpg「ヘンリー・J・フォード"The Dragon of The North", The Yellow Fairy Bookより」