GIORNALE DEL MAMMA AIUTO!
ぬいぐるみトトロ


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20131201s0.jpg12月になりました。待ちに待ったクリスマスシーズン、美術館ではこの時期だけの特別な飾りつけがされています。
ツリーや手作りのガーランドや小物たち...ちりばめられた装飾で美術館もちょっと大人の雰囲気に。
異国に迷いこんだようにどきどきしてきます。今年はどんなクリスマスになっているのか、ぜひ見にいらしてください。

ショップでは新作映画「かぐや姫の物語」のオリジナルグッズが新登場。
かぐや姫の優美な世界観を取り入れた商品のひとつひとつを、ご覧いただけたら嬉しいです。



 

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ジブリ美術館オリジナル ―――【ぬいぐるみトトロ】

ショップに並ぶ商品のどこからか、視線を感じることはありませんか?

店内にじいっとたたずむその主は、美術館オリジナルぬいぐるみトトロです。
きょとんとした瞳はどこを見つめ、何を語ろうとしているのでしょう...。

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▲オリジナル ぬいぐるみトトロ...¥4,500(税別)

今回、もの言わぬトトロにかわって、
ぬいぐるみとは、どんな思いが込められて作られているのかを、
作り手の方々にお話をうかがいました。

 

オリジナルトトロのはじまりは...

まずはじめに、ぬいぐるみ専門メーカーで、製造元である株式会社サン・アローの、
企画当初に担当されていた谷崎敏久さんにお尋ねしました。
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▲企画を担当されたサン・アロー谷崎さん

トトロのぬいぐるみは多くの種類が販売され、長く愛されている人気アイテムです。
そんな中、美術館オリジナルのぬいぐるみとして新たに登場したトトロ...。
その誕生の経緯を改めてお聞きしたいと思います。


それまでのトトロぬいぐるみとの違いはどこにあるのでしょうか?

谷崎 「数年前、ジブリ美術館さんから、
〈もっと本物に近いトトロのぬいぐるみ〉〈10年~20年たっても家族で引き継がれるようなぬいぐるみ〉
を企画できないか、とのお話をいただきました。
一般製品のトトロのぬいぐるみは、生き物として存在しそうかといわれると、
そのようなプロポーションにはなってはいません。
アニメーションのイメージより可愛らしく作ってあります。ツメもありません。
でも、オリジナルトトロは難しいんです。美術館から要望のあった〈本物感〉を追求しすぎるとかわいさが失われますし、
気持ち悪いと感じられるお客様もいらっしゃいます。

そこで、ほどよくリアリティを持たせつつ、しかもトトロのかわいいイメージを損なわないという、
ギリギリのところを目指さねばなりませんでした。

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▲オリジナルトトロのツメ。目や鼻もよりリアリティのある仕様に。胸の模様は刺繍でできている。

そんな繊細な作業を目指すうえで、当時ぬいぐるみ製造は海外生産が主流となっていたのですが、
国内生産ではどうか...という話になったんです。
これらの条件を満たすことができ、なおかつ量産が可能なぬいぐるみ製造...
それができるのは福本さんしかいない、と思いました」

谷崎さんが信頼される福本さんとは、どんな方なのですか...?

谷崎 「福本さんは、ぬいぐるみ製造をはじめてから今年でちょうど50年の大ベテランです。
少年時代、お母さんが内職ではじめた仕事を手伝ったのがはじまりだったそうです。

ぬいぐるみ製造が中国など海外に移るなかで、日本では数少ないぬいぐるみ製作所を経営されています。
注文を請けると型を作るところから、毛づくろいを整え顔を仕上げるまで、
こだわってぬいぐるみを作っていらっしゃいます」



 

日本のぬいぐるみマイスター

谷崎さんからご紹介をいただいた、
ぬいぐるみ職人の福本幸治さんのところへさっそくお邪魔し、お話をおうかがいしました。

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▲ぬいぐるみ職人の福本さん


福本さんがぬいぐるみ製造上で大切にしていることはなんですか?

福本 「ぬいぐるみは型紙の数が多ければ複雑な形が出せますが、縫製が大変になります。
でも、形がシンプルだと逆にむずかしい。オリジナルトトロもそう言えます。

頭は基本が三角型でしょ? 私の所では三角にしているので、頭のてっぺんは広げません。
頭から肩にくるところは馴染むように。
頭と体がつながってるから、繋ぎ目がないように自然に落ちるようにして。
首があったのではうまくないので、それは気をつけています。

ああいうシンプルな形でも、形を出しちゃいけないところ、
出すところ、というのは何箇所もあるんですよ」


仕上げ作業を拝見しましたが、顔の表情を作るのに糸でへこみを作るんですね!

福本 「糸のひっぱり加減で表情を作って、これくらいがカワイイかな...
というちょうどいいところで結ぶんです。
糸を引く加減の強弱で顔が変わっちゃう。それは技術じゃなくて、やる人の〈目〉なんですよ。

ちょっとおかしいから糸をゆるめてみて、
『あ、このほうがカワイイ』ということがわかればいい。
ゆるめたりひっぱったりというのは技術じゃないでしょ。
〈目〉=〈センス〉を持っているかどうか...これがいちばん大事なことですね」

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◀右は縫製と綿入れをしただけのトトロ。
この状態から、目と目の間に糸を通して引くと、
左のように鼻の上がへこんで表情が出ます。


そんななかでも、福本さんの一番のこだわりはどこですか?

福本 「私に言わせると品質を左右するのは、綿の詰め方じゃないかと思うんですよ、形をどう出すか。
トトロの形がある程度出ていれば、『あ、トトロだ!』で買っていくお客様はいっぱいいると思います。
でもね、よく見る人は『これかわいくない』とか、『何か違う』という人もいるわけでしょう。
やはり、かわいいトトロがいいじゃないですか。

美術館ではなくて、安売りのようなお店ではよくできていなくても安ければ買ってしまいますよ。
なにもぬいぐるみだけじゃなくて、最近の商品はみんなそうですよね」

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▲単なる工業製品ではなく、ブラッシングなど、一つ一つの工程が愛情に満ちています


 

日本におけるこの50年間の移り変わり

「ぬいぐるみは、本来はそんなにいっぱい作るようなものじゃないんですよ」と福本さんはおっしゃいました。
小さい規模で一つひとつ手作りするのがぬいぐるみの原点なのだそうです。

一個一個にこだわって手を入れているんですね。最初からそのようになさって来られたのですか?

福本 「私がこの仕事をはじめた1963年よりもっと前の話ですが、
国内でぬいぐるみが商売になる以前にはぬいぐるみという物はなかったんです。
お母さんが着られなくなった古着を切り刻んで手で縫って、小さいウサギとかクマとかを作って、
中に何かを詰めて与えて子どもが喜んだ...というのが、ぬいぐるみの発祥なんですよね」

なるほど...。では50年前はどのように作られていたのでしょう?

福本 「50年前はぬいぐるみはあまりなかったですよ。当時のものをお見せしましょう」

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◀この赤い犬のぬいぐるみは50年前に
福本さんのお母さんがデザインしたもの。
東京オリンピック開催の年(1963年)に発売され、
〈五輪〉にあわせ五色あったそうです。


抱いて楽しむ現在のぬいぐるみと違って、飾って眺めることが主眼だったんですね。
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福本 「中に詰めているのは、木毛(もくもう)という素材で、果物を敷くのに使う、
木を蕎麦みたいに細く削いだ素材があるじゃないですか。あれがぬいぐるみの中身でした(※写真参照)
そのうちにお客さんは、こういう硬さじゃなくて、柔らかい感触のものを希望しだした。
そこで出てきたのがウレタンです。まだ綿ではなかったですね。

それから10年くらい経つと、今度はウレタンを機械で詰め出して、
また10年経つと、今度はビーズみたいなウレタンの小さいチップが出てくる。
この辺から大量生産がはじまり、それから10年経って綿が出てきたんです。
木毛、ウレタン、綿、で綿になって何十年も主流だね。一番大量生産しやすいのが綿です。
同時に、今度はもっと感触のいい、フワフワの手触り、そういうものが要求されるようになった。
その柔らかいものが、また10年くらい続いています。

でもね、あんまりそれが続くと飽きが来るんです。見ていると流行りはまた戻っていく。
生地も毛足が長いものができたり、短いものが出てきたり。
それに合わせたものが、50年間でだいたい5回くらい変わってきてる。
10年おきだよね。50年間ずっと見てるとね」




未来につながるぬいぐるみの温もり

日本でのぬいぐるみの歴史は、ほぼこの50年のあいだのことだということを知りました。
では、ぬいぐるみはこれからどのように変わっていくのでしょう...。

オリジナルトトロは、国内生産にこだわることが企画段階でのポイントの一つでした。
ぬいぐるみを国内で製造することはそれほど難しい状況になっているのですか?

福本 「いまになってまわりを見渡すと、50年前にぬいぐるみを作りはじめて残ってる会社は、たぶんうちだけですね。
30年くらい前の最盛期には、うちの生産力の10倍はできる大きな工場が最低でも10社はあったけど、
全部見事に辞めましたね。いまだにやってる所はないんじゃないかな...と思いますよ。

自慢するわけではないですが、うちはいいかげんなことができなかったので、
当時はほかの所より製造費が一番高かったんです。
それでも、よく『おまえのところは詰めが上手いね』って言われました。
詰めが上手いんじゃなくて、私が全部手直ししていたんですよ。
出来あがったものにもう1回、手間をかけてたの。だからどうしてもその分、お金も高くなっちゃうんです。
何も利益率を多く取ろうってわけじゃないんです。それだけ手間がかかってるから。

それでもその後、ちょうど16年前くらいに息子がこの仕事をやるようになった頃は大変でしたね。
なんでも中国生産が主流に変わっちゃったから。『ああ終わりだなあ』って思いました。

ずいぶん悪い時も何回もあったけど、国産がガタンと急になくなった時が一番最悪だったね...」


中国生産にシフトしてゆくなかで、福本さんはそれでも手間を惜しまず国内生産を守られてきたんですね。

福本 「あの頃をどうやって乗り越えたのか...もう忘れちゃったなあ、相当しんどかったはずなのに。
人間って喉元過ぎればというか、忘れちゃうんだね。キツかったことは間違いないんだけど。

まあ、50年もやってればなんだかんだある。
山あり谷ありどころじゃなくて、崖ありヤブありばっかりだよ(笑)。

いろいろあったけど、メイドインジャパンのぬいぐるみは少なくなってるのは確かですね。
ただ、なくしたくないんですよ。でもいまの状態のままでは細る一方ですね。
若い人に力を貸してもらわないとメイドインジャパンは本当になくなってしまう。
いま一番頭を痛めていることはそういうことなんです。

ぬいぐるみはプラスチックのおもちゃなどとは違う、癒やしの何かがあるんですよ。
大人も子どももなんとなく癒やされる...っていうね。
生き物みたいなものだね。
だから、ぬいぐるみはなくならないだろうと思ってるんです」

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オリジナルのトトロも、たとえば美術館に来た子どもたちがおばあちゃんに買ってもらったとして、
10年か20年たって、いつかその子もぬいぐるみを卒業するときが来るでしょう。
できればそれを次の家族に渡して欲しいと願っています。
そういう一体であってほしいなぁ...と思ってお店でも、
思いのバトンを受け継いだつもりで販売しているんです。

福本 「それはいいですね。ぬいぐるみを作る人、売る人、
それから買った人もみんなそういう考えでいてくれると、いちばんいいですよね」

今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。



 
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ショップ「マンマユート」の店内には、自分の目で見て触って発見できる商品がたくさんあります。引き出しを開けたり背伸びをしたり...。思いがけず自分だけの小さな宝物が見つかるかもしれません。
ここではそんな宝物の中から、おすすめの商品をご紹介します。


今回ご紹介するのは最新作『かぐや姫の物語』にちなんだ美術館オリジナルの新商品です。

「かぐや姫の物語」起こし絵ポチ袋 … 600円(税別)

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開くと登場人物が起き上がる起こし絵ポチ袋。和紙を使っているので破れにくく、とても丈夫です。封筒にはそれぞれ着物の模様が描かれています。3種類の絵がかわいらしくて、どれから使おうか迷ってしまいます。


「かぐや姫の物語」蛇腹便箋 … 600円(税別)

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一見小さな巻き紙のようですが、蛇腹の折り目に沿って好きな長さで切りわけることができる便箋です。創業200年の歴史をもつ日本橋「はいばら」の上質な和紙は、国内の雁皮紙を使っているため書き心地滑らか。思わず一筆書きたくなります。


「かぐや姫の物語」扇子 … 4,000円(税別)

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そっとひろげると、満開の桜とかぐや姫。あおぐとふわっとほのかに薫る趣のある一品。閉じたときも美しく、使い勝手も抜群。用と美を兼ね備えた伝統の技を感じます。箱には男鹿和雄さんの桜の背景画が描かれています。扇子をひろげてかぐや姫の世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

※商品は品切れの場合がありますので予めご了承ください。