本棚より[季刊トライホークス 2014年36号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

二ひきのこぐま

作...イーラ 訳...松岡享子 こぐま社 1,500円(税抜)

 この写真絵本の作者は、動物専門の女性カメラマンのイーラです。彼女は動物園や身近な場所だけでなく、アフリカやインドに行き、そこに生きる動物たちの撮影をしました。60 年近く前に亡くなりましたが、彼女の残した写真は、今も多くの人たちに愛されています。この本は、彼女自身が物語を手がけた唯一の絵本になります。

 ある寒い冬に、男の子と女の子の双子のくまが生まれました。二匹は春になると外へ出かけます。かけっこやかくれんぼをして遊びますが、気がつけばお母さんの注意を忘れて家から遠く離れていました。帰り道を探しますがなかなか見つからず、迷子になってしまいます。

 モノクロで写っている、大きくてりっぱなお母さんぐまや、小さくて丸いこぐまたち。その姿は素朴で、力強かったりかわいらしかったりします。驚いたのはこぐまたちの表情です。アライグマに唸られたときやカラスに叱られたとき、その顔には、驚きや戸惑いの表情が浮かんでいるのです。くまがこんなに表情豊かな動物だったとは。これはイーラの魔法なのでしょうか......。また、親の言いつけを破って遊んでしまうこぐまたちの行動にも、目がはなせません。読んでいるうちに人間の子どものように見えてきます。

 そんなニ匹の冒険を、ぜひ小さな子こどもと一緒に楽しんでみてください。なんだか身近に感じられて、夢中になってしまうのでは、と思います。

ギリシア神話

編・訳...石井桃子  画...富山妙子 のら書店 2,000円(税抜)

 大昔から、人は自然の様々なものに神様を重ねて見ていました。太陽や星、海や大地も含めて、この世は不思議なものであふれていたのです。なぜ昼があるのか、なぜ夜があるのか、人間の力が及ばない自然の大きな力や現象は、神様がおこしているに違いないと考えました。

 例えば、ギリシア神話で「月」を象徴するのは、「アルテミス」という女の神様です。月の女神アルテミスは、神々と人間の王であり父であるゼウスと女神レトの間に生まれた娘で、太陽の神アポロンの双子の妹です。新月の形をした冠をつけ、弓とたくさんの銀の矢を持って、山々をわたり歩く狩人でもあります。

 その他にも、たくさんの神様が登場しますが、神々だけでなく、木や水の精であるニンフや、巨人や小人、神々と人間の間に生まれた子どもたちも登場し、この世の不思議を語っています。ゼウスと人であるアルクメネのあいだに生まれたヘラクレスの十二の冒険、この世にどうして「苦しみ」がやってきたかを語った「パンドラ」、山びこになった美しいニンフエコーの話など、たくさんのお話がこの本の中に詰まっています。

 はるか遠い昔に生まれた物語は、今も生きていて私たちを惹きつけます。夜空に輝く月から生まれる物語も、その土地その土地で違います。「神話」に惹かれるのは、世界がとても広く、不思議なものに満ち溢れていることを感じられるからなのかもしれません。

季刊トライホークス 36号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
養老孟司さん。解剖学者であり、幅広いテーマを論じた多くの著書で知られる養老さんが、「夢中になって読んだ本」として、ファーブルの『昆虫記』を紹介してくださいました。養老さんは大の虫好きとしても知られ、虫に関する著作や展示の監修なども手がけ、箱根の別荘にはこれまで集めた虫の標本が多数保管されているそうです。そんな養老少年は、『昆虫記』の何に惹かれたのか......。今だからわかるという、物語の"おもしろさ"の理由に、はっとさせられました。
連載「アーサー・ランサム(第4回)」
33号から4回にわたって、イギリスの作家アーサー・ランサムについて連載しています。最終回となる36号で紹介しているのは、『女海賊の島』。中国の架空の島を舞台に、火事でヤマネコ号を失った子どもたちとフリント船長が、美貌の女海賊ミス・リーと覇権を狙う海賊たちとの争いに巻き込まれます。
山猫だより「かいぼり」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。ため池や沼などの水を汲み出して干し、体積したヘドロや土砂を取り除く「かいぼり」。水質改善と増えすぎた外来生物の駆除を目的として各地で行われています。井の頭恩賜公園でも、2017年の開園100周年に向けて「かいぼり」が行われることになりました。池の底から出てきたのは......。