本棚より[季刊トライホークス 2016年44号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

オオサンショウウオ

しゃしん...福田幸広 ぶん...ゆうきえつこ そうえん社 1,400円

 世界最大の両生類オオサンショウウオは、国の特別天然記念物で、西日本の一部に生息する珍しい生き物です。小さい恐竜のような姿をしていますが、ちょっと離れた目と平たい顔を見れば、かわいらしいと思う人も多いでしょう。そんなオオサンショウウオのくらしが、年に一度の大仕事である〝繁殖〞を軸に、初めて見るような写真とともに紹介されています。

 主人公は1 匹のオスのオオサンショウウオです。普段は活発に動くこともなく、川のふちや石の隙間で、静かにマイペースに過ごしています。ご飯を食べるのは週に1 度でも平気です。ホタルの飛ぶ夏になると行動を開始し、繁殖のために川を上り巣穴へと移動します。やがてメスが巣穴を訪れると、産卵がはじまります。巣穴に辿り着くまでに1 ヶ月も旅をすることや、子育てを担当するのがオスであることなど、意外な生態が興味深く感じられました。

 驚いたのは岩の下に隠れている6 匹ものオオサンショウウオの写真を見たときでした。写真の力にひかれ、目が離せませんでした。他にもメスの卵を狙って集まってきたオスたちの群れ、青白く光る無数の卵など、一体どうやって撮影したのかと、感心してしまいます。少し不気味に思えるときもありますが、神秘的にも見えるから不思議です。なかなか見られないおもしろいものが見られた、という満足感を与えてくれるので、ぜひ手にとって読んでいただければと思います。

夜の語り部

著者...ラフィク・シャミ 訳者...松永美穂 西村書店 1,700円

 シリア、ダマスカスの旧市街に住むサリムじいさんは、町一番の語り部であり、言葉の翼で世界のあらゆるところへと旅し、話を聞く者をはるかかなたに連れていってくれました。ところが、ある日突然、サリムじいさんは口がきけなくなってしまったのです。

 それは妖精の仕業でした。ある夜、サリムじいさんのところにやってきた妖精は「自分も年老いたのでサリムのそばを離れて引退しようと思うが、自分が離れてしまうとサリムは言葉を無くしてしまう。もし、あと三ヶ月の間に、七つの特別な贈り物を手にすることができたら、若い妖精がサリムのそばにいてくれるだろう。」と告げたのです。サリムには七人の友人がいました。毎晩、サリムのところにやってきて共に過ごす彼らは、サリムの声を取り戻そうと様々なことを試みます。七つの招待、七種類の香り、七つのワイン......、そして、最後にひとりひとりが物語を語ることにしました。

 1,000年、2,000年とその歴史をたどることができる古い町には、たくさんの民族、宗教、言葉があり、彼らの話の中からその複雑さを垣間見ることができます。サリムの七人の友人は語り部ではありません。けれど、複雑な町で生きてきた彼ら自身がひとつの物語なのです。遠いシリアの、ダマスカスの雑踏が聞こえてくる、そんな一冊です。

季刊トライホークス 44号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
恐竜研究の第一人者、真鍋真さんに読書歴を教えていただきました。真鍋さんは昨年出版された『せいめいのれきし 改定版』(岩波書店/文・絵バージニア・リー・バートン)の監修もされています。幼い頃からこの本と親しんでいたそうです。
連載「E.L.カニグズバーグ」
カニグズバーグ作品の中でも珍しくファンタジー要素の強い作品です。11歳のジーンマリーとマルコムは透明人間となり、大女優タルーラの持ち物である盗まれた宝石"レジーナの石"を探します。この作品に込められたメッセージとは......。
山猫だより「ほっとひと」
美術館のカフェデッキでの日々を紹介しています。この場所では、テイクアウトコーナーで購入したホットドッグをほおばっている人、お弁当を広げているご家族、一休みしている方などなど、訪れた人が建物や展示から離れて自分の時間を過ごしていらっしゃいます。目立たないながらもほっとひと息つけるような場所にしていけたら、と考えています。