本棚より[季刊トライホークス 2017年47号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

日本の鳥の巣図鑑 全259

作・絵 鈴木まもる 偕成社 2,400円(税抜)

 私たちが住んでいる日本は島国です。北は北海道、南は九州・沖縄まで、人が住んでいない本当に小さな島まで数えたら6,000を超える島々が集まった国です。そしてこの限られた土地には3000メートル級の山々もあります。この本には、日本で巣を作り、卵を産み、ヒナを育てたと記録された259の鳥と巣と卵が紹介されています。

 世界には約9000種の鳥がいるといわれており、日本では約500種の鳥が暮らしているそうです。鳥たちは卵を産み育てるため、絶海の孤島から、崖や木の上、水辺など、様々なところに巣を作ります。そして、ヒナが巣立つと巣はその役目を終えます。作者の鈴木まもるさんは、ある時、使われなくなった巣を偶然見つけて、その形の美しさ、不思議さに魅せられ、鳥と鳥の巣について調べるようになったそうです。表紙の裏には、今まで鈴木さんが集めた鳥の巣の写真が載せられているのですが、無駄のない作りは美しさにもつながり、大きさや形、材料など、天敵からヒナを守り育てるための知恵と工夫が詰まっています。そしてその知恵と工夫は、誰に教わるわけでなく本能として身についているものなのだと思うと、生き物の不思議と力強さを感じます。

 鳥の巣を目にすることはあまりないかもしれませんが、鳥の声が聞こえない日はないのではないでしょうか。この本を手に取ると、いろいろな鳥が同じ日本のどこかで暮らしていることを想像できます。

魔女ジェニファとわたし

著者...E.L.カニグズバーグ 訳者...松永ふみ子 岩波少年文庫 品切れ重版未定

 新しい町に引っ越してきたエリザベスは、ハロウィーンの朝、学校へむかう途中で風変わりな少女ジェニファと出会います。魔女だというジェニファから、魔女になるか問われたエリザベスは、〝見習い〞として会う約束をします。

 10歳のエリザベスは、素直じゃなくて、少し孤独で、自分の感情を持てあましてもがいている、目立たない女の子です。母親には本当の気持ちを話せず、訪ねてきた大おじ夫婦を批判的に見たり、大人に褒められるシンシアには、猫をかぶっているだけの偽者だ、と毒づいたりする......。一方でジェニファは、学校で唯一の黒人であるため自意識が強く、「魔女」という殻に閉じこもって生きています。少しだけ似ている2 人は、魔法の儀式を通して、近づいていきます。

 本編でカニグズバーグが細やかに描く少女たちには、強い共感と気恥ずかしさを覚えました。振り返ってみれば、自分にもエリザベスと同じように大人のことを見ていたり、友だちと一緒に遊んだり、衝突した覚えがあるからです。でも、そんな時期もエリザベスとジェニファが乗り越えたように、気がついたら過ぎていきました。舞台はアメリカの田舎町ですが、住んでいる場所、国にかかわらず、多くの人が懐しさを感じたり、思い入れを持って楽しめるお話だと思います。

季刊トライホークス 47号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
絵本作家の西村繁男さんに寄稿していただきました。西村さんに影響を与えた秋野伊亥左牟さんや田島征三さんの絵本を中心に、"独創的で絵そのものに力がある"と西村さんがいう本を紹介しています。
連載「オトフリート・プロイスラー(第3回)」
完成までに10年以上の歳月を要したプロイスラーの代表作『クラバート』を取り上げました。ラウジッツ地方に古くから伝わる伝説をもとに書かれたこの作品は、キリスト教の世界とは別の、森や山や川といった神秘的な自然と深く結びついています。
山猫だより「手作りの冬」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。この冬はいろいろなモノをつくりました。スタッフ全員で作ったり、部署ごとだったり、集まりも目的も様々ですが、井戸端会議のような集まりがそこかしこでできたひと冬でした。