本棚より[季刊トライホークス 2018年53号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

聞き書 東京の食事

農山漁村文化協会 2,762円
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 「日本の食生活全集」は、企画展示「食べるを描く。」の中で「食べるを学ぶ」1冊として紹介しています。「食」は文化であり、日々の暮らしに欠かせないものであり、アニメーション制作においても「食」から登場人物を表現するなど、とても重要なものとなっています。この全集はスタジオジブリ内の図書室の本棚、そして宮崎駿監督のアトリエの本棚にも置かれています。

 全50巻からなる全集は、北から南までの日本各地、全国300地点、延べ5000人から食に関する話を聞き、まとめられたものです。話者は、昭和初期(1930年頃)に台所を預かっていた女性たち。それぞれの土地で日々の食事を作った彼女たちの話を聞き、実 際の食事を再現してもらい、記録にとどめた集大成なのです。土地ごとの素材、料理法、食べ方は、そこでの暮らしとあわさり、独特の文化を作り上げてきたことがわかります。

 その中から『東京の食事』について。地方出身者が多くを占めるこの土地に郷土食といえるものがどれぐらいあるのか、編者は「東京」を取り上げる際にまず疑問に思ったそうです。けれども、実際には東京湾の豊かな魚介類、近郊で採れる農作物があり、それに加え、地方出身の人たちが持ち込んだふるさとの味、江戸の昔より盛んだった外食 産業、外国からの料理も一般家庭に普及し、大都会ならではの食文化が作られていたようです。巻頭では、深川、本所、浅草、葛飾、大森、武蔵野......、下町や山の手、東京 各地に住むお年寄りから聞いた「食」の数々がカラー写真で紹介されています。農耕にまつわる行事は少ないけれど、季節の変わり目には様々な行事があり、ハレの日の食卓が賑わっている様子がわかります。

 取り上げられている食事の数々は、懐かしいと感じるより、なじみのないものの方が 多いかもしれません。しかし、今の食生活が昔と違っていることを嘆くというのではなく、「食」が持つ豊かさの確かな記録がここにあり、こんな本もあるのだと、まずは知ってもらいたいと思い紹介いたしました。そして、読んだらおもしろいですよ、とおすすめしたい本でもあります。

『白いりゅう 黒いりゅう』より 九人のきょうだい

編者...賈芝、孫剣冰 訳者...君島久子  絵...赤羽末吉 岩波書店 1,600円
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 ある村に住む子どものいないお年より夫婦のもとに、白髪の老人があらわれて子宝の得られる薬を与えます。そして「力もち」「食いしんぼう」「腹いっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「寒がりや」「暑がりや」「切ってくれ」「水くぐり」という9人の兄弟が生まれました。やがて兄弟が大きくなったころ、都で宮殿の柱が倒れてしまう出来事が起こり、王様から「直した人間には褒美をとらせる」というおふれが出されました。そこで兄弟たちは相談し、力もち〞が出かけていき柱を直して戻ってきます。兄弟を恐れた王様は、彼らに無理難題を言いつけます。9人は、名前と同じ特技を生かして立ち向かいます。

 このお話は、中国の雲南省に住む少数民族イ族に伝えられていたものですが、『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店/君島久子)によると、同様のお話がかなり広い範囲にわたって語られてきたそうです。兄弟たちが活躍する痛快な冒険は、民族や時を超えて人々を魅了する力があるのだと思います。

季刊トライホークス 53号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室で3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

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夢中になって読んだ本
作家の三浦しをんさんに本を紹介していただきました。たくさんある著作の中で図書室にあるのは『神去なあなあ日常』(徳間書店)、宮崎駿監督がおもしろい!とおすすめの文章を書いている本です。この本とともに、三浦さんのおすすめの本をぜひ手に取っていただきたいと思います。
連載「ジュール・ヴェルヌとその時代(第2回)」
ヴェルヌの『八十日間世界一周』が発表された1972年は、世界旅行の交通網がほぼ完成した時代でした。実際、1889年には二人の女性記者が東回りと西回りで世界一周の冒険に出発します。さて、この作品が真に描きたかったものとは......。
山猫だより「教えてくれた本」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。4月にお亡くなりになった高畑勲監督は、映像作品だけでなく、多くの著作を遺しています。美術館スタッフは、展示やアニメーションに関して調べる際、高畑監督の著作を繰り返し読み、多くのことを教わってきました。そんな本をいくつか挙げてみました。