本棚より[季刊トライホークス 2015年43号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

おさるとぼうしうり

さく・え...エズフィール・スロボドキーナ やく...まつおかきょうこ 福音館書店 1,100円

 むかしあるところに、町から町へとぼうしを売り歩く行商人のおじさんがいました。ある日のこと、ぼうしが全く売れず、おじさんは木の下でひと休みすることにします。長いこと眠り、目を覚ますと、売り物のぼうしがありません。見上げると、木の枝にぼうしをかぶったおさるたちがいました。おさるたちは、おじさんがお願いしても怒っても真似をするだけで、ぼうしを返してくれません。いったいどうしたら良いのでしょう......。

 人物と風景が、簡潔な線と少ない色数で描き分けられた本作。おさるたちが、木の枝いっぱいに広がり盗んだぼうしをかぶっている場面は、大きな見せ場だと思います。おじさんとおさるたちとのやりとりも楽しいのですが、物語で1 番心に残るのは、〝おさる〞や〝ぼうし〞よりも、〝ぼうし売りのおじさん〞その人です。本を開くと、まず最初におじさんが描かれています。髪をわけ、口ひげをはやし、黒いジャケットをきちんと着ているのですが、頭の上に16 個のぼうしを積み上げているので、怪しいのです。基本的に無表情であり全編そのスタイルで、とても存在感があります。

 作者のスロボドキーナはロシア生まれ。中国北東部で育ち、19歳のときにアメリカへわたりました。本書は1940年に出版され、現在でも古典絵本として広い世代に読まれています。洒落た雰囲気を持ちながら、おじさん独特の個性がゆえに、なんとも言えない味わいが残る、不思議な絵本です。

江戸の町 上・下

著者...内藤 昌 イラストレーション...穂積和夫 草思社 各1,600円

 日本の首都である東京は、慶應4 年(1868年)江戸を東京と改称、京都より遷都されました。江戸が徳川幕府の所在地として発達してきたのは、誰もが知るところ。では、いつから「江戸」と言われるようになったかというと、1192 年鎌倉幕府が開かれる頃に「江戸」の名称が歴史に現れるようになったそうです。「江」は、海水が陸地に入りこんだところを表し、「戸」は入口を意味する「江戸」。江戸湊に面するこの土地は、1590年に徳川家康が入城した後、城下町として発展していきます。

 この『江戸の町』には300年にわたる江戸の町づくりがまとめられています。上巻は初期城下町建設と明暦の大火で江戸市中が焼け野原になってしまうまでの約70年間。下巻は、17世紀後半から19世紀後半までの約200年間です。18世紀初めには、ロンドンやパリをもしのぐ大都市だったと言われる江戸の町が、多くの火事を経験し、増える人口や緑地計画などの都市問題を抱えながら、どのように変化してきたのか、人々がどう暮らしてきたのかが紹介されています。

 この本の中で何よりご覧いただきたいのは、全ページにわたって掲載されているイラストです。地図や建築物、俯瞰した町の様子に人の暮らしなど、たくさんの「絵」のおかげで江戸の姿がとてもよく見えてきます。今も地名の中にその名残を見ることができる東京、その土地の歴史をたどることができる本です。

季刊トライホークス 43号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

TH43.jpg
夢中になって読んだ本
昆虫カメラマンの新開孝さんに寄稿していただきました。小学生のころの新開さんが手にとっていた本は、科学小説と中国民話でした。やがてある本との出会いにより、昆虫に興味を持つようになったそうです。
連載「E.L.カニグズバーグ」
カニグズバーグが2作だけ書いた歴史小説から『ジョコンダ夫人の肖像』をご紹介しています。レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた名画"モナ・リザ"に隠された秘密とは? 歴史上の人物たちに奥行きを与え、生き生きとした姿で蘇らせたカニグズバーグの考察力と構成力に唸らされる1冊です。
山猫だより「ミステリーへようこそ」
10月24日から、2Fギャラリーにて「ミステリーへようこそ展」が始まりました。本格推理小説から、殺人もおこらない、探偵も登場しない、でも謎解きの面白さを味わえる本まで幅広く紹介しています。美術館で定期的に行っている読書会でもミステリーを読みましたが、わかったことはスタッフの多くもミステリー初心者だということ。夜の長いこれからの季節、ミステリーを楽しみたいと思います。