本棚より[季刊トライホークス 2016年46号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

今森光彦フィールドノート 里山

著者...今森光彦 福音館書店 2,800円(税抜)

 昆虫写真などで知られる写真家の今森光彦さんは、長年にわたりご自身がアトリエを構える琵琶湖西部の里山で、生きものの営みを見つめてきました。ここで言う「里山」とは、人の入らない深淵な森のような場所ではなく、田畑や小川、雑木林など、人間の生活のすぐとなりにある空間のことです。この本には、今森さんの15年間の活動をおさめた写真が満載です。

 季節によって姿を変える里山の風景、そこに住んでいる動植物、とりわけ春を過ぎて現れる昆虫たちの写真はとても美しく、興味深い姿をしています。秋の終わりの落ち葉の世界には、ひっそりと珍しいキノコが誕生しています。一番心を惹かれたのは、その地域に根付いている習わしでした。あぜ道や小山の頂上で見かけられる多くの個性的な「野仏」たちをまとめた〝野仏マップ〞、お盆にご先祖様を迎える〝おしょらいさん〞やお米の害となる虫を追い出す〝虫送り〞といった儀式などは、どこか恐ろしく感じるのに、見てみたいという思いにかられます。

 日本中から里山の風景が失われつつある、という危機感を抱えた今森さんの記録から、読者が何を読み取るかは千差万別でしょう。ただ昆虫を好きな子も、植物に興味がある子も、棚田に関心がある人も、全てがそう広くない場所で深くつながって存在していることを、小さな驚きとともに感じられると思います。

妖精ディックのたたかい

著者...K.M.ブリッグズ 訳者...山内玲子 岩波書店 2,100円(税抜)

 17世紀半ばのイギリス、コッツウォルド地方にウィドフォード屋敷と呼ばれる地主屋敷がありました。ディックは、何百年もの間この家に住む人や財産を守ってきた「家つき妖精」です。長い間空き家となっていたこの屋敷に、新たにやってきたのは商人のウィディスン一家でした。ディックは家になじまない家具を落ち着かせようと、磨いたり、動かしたりして、一家の生活がうまくいくよう手伝います。家つき妖精は、人間がそばにいると元気が出てくるものですし、目に見えないものへの怖れや敬意を持ち合わせた、"ものの道理"がわかった人もわずかですがちゃんといて、ディックを喜ばせました。

 魔女や悪霊がうろつく夏至祭の前夜のこと、一家の次女マーサが、ディックを狙っていた魔女のマザー・ダークにさらわれてしまいました。ディックは仲間の妖精とともに、マーサを助け出すためにマザー・ダークのもとへ向いますが......。

 この物語の作者キャサリン・ブリッグズは、イギリスの民俗学、妖精学を研究した人です。物語の舞台となったコッツウォルド地方は、作者が長年住んだ場所であり、魔女や悪魔、妖精が登場する伝説、伝承が数多く残されている土地でもあります。この物語は、超自然に関心を持ち、研究を重ねたブリッグズだからこそ描けた世界だと思います。姿は見えないけれど、ディックがいたらと思うと、自分の住んでいる世界が何倍も広く深く感じられるのではないでしょうか。

季刊トライホークス 46号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
作家の中脇初枝さんにお話を伺いました。長く昔話に関わってこられ、また私たちの身近な問題を取り上げた著作も多数あります。中脇さんの本との出会いを紹介します。
連載「オトフリート・プロイスラー(第2回)」
少年と泥棒たちの愉快な冒険物語『大どろぼうホッツェンプロッツ』は、プロイスラーが代表作『クラバート』を構想中、行き詰ったときに書かれた作品でした。『ホッツェンプロッツ』は世界中で評判となり、続編を望む多くの声を受けて3部作となります。
山猫だより「変わったところ」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。2ヶ月間の改修工事の後、大きく変化したところは外壁と屋上です。空間が変わると、物の見え方、人の動きが変わることを実感しました。