GIORNALE DEL MAMMA AIUTO!
フレスコ画スカーフ


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20151201s005.jpg12月になり、早朝は空気もぴりっと冷え込むようになりました。開店準備をしていると、カフェの暖かそうな薪ストーブの匂いが漂ってきて、冬の到来を感じます。
本日から館内はクリスマスの装飾に。今年のクリスマスは、企画展示「幽霊塔へようこそ展」にちなんで、江戸川乱歩の生きた明治後半から大正にかけての時代風に、クラシカルな装飾をイメージしています。店内も手作りの小物でいつもと一味違う空間に。西洋風の古い館に遊びに来たような気持ちになります。美術館で過ごすノスタルジックなクリスマスに、是非浸ってみてはいかがでしょうか。




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豊かさをまとう喜び―――【フレスコ画スカーフ】

美術館への第一歩、その入口の天井は半球状になっていて、
丸い壁へとなめらかにつながっています。
頭の上には大きなお日さまの笑顔が輝き、
たわわに実る美味しそうな果物や青空に向けぐんぐん育った豆の木、
そしてほうきに乗ったキキ、メーヴェで空を駆けるナウシカ、サツキやメイたちもこちらに微笑みかけています。
その鮮やかなフレスコ画は、豊かな世界を象徴するかのように入り口で皆さんを包み込みます。
豊かで明るい気持ちに包まれるこの絵柄をそのまま持ち帰れたら......
そんな思いから、シルクのフレスコ画スカーフは生まれました。

今回は一枚のスカーフが生み出されるまでの、
人がつないでいく〈絹の道〉の物語をお贈りします。


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▲フレスコ画スカーフ...¥25,000(税別)




歴史ある横浜スカーフとの出会い

約150年前に横浜港が開港して以来、
横浜のスカーフはその品質の高さが評判となり、
ヨーロッパをはじめ、国内でも人気を呼んできました。
やがて〝スカーフといえば横浜〟
というブランドとして認知されるようになっていきます。

しかし輸出量がピークを迎えた1970年代以降、
1980~90年代には海外有名ブランドの大攻勢により、
ほとんどの工場が閉鎖に追い込まれていきます。
しかしたった一社、意匠から生産までの工程を管理し、
《横浜スカーフ》のブランドを守り続ける会社がありました。

創業60年を超える株式会社 丸加は、時代の荒波の中で、
地場産業である絹製品にこだわり続けてきました。

まずは、同社で商品企画から製造・販売までを統括する、
遠藤洋平さんに話を伺いました。


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▲【株式会社 丸加 取締役/第2事業部部長 東京支店長 遠藤さん】
1980年生まれ。横浜にあるショップMarca(マルカ)の運営責任者も兼任し、オリジナルスカーフやストールの魅力を発信し続けている。

はじまりはどのようなものだったのでしょうか?

遠藤  ジブリさんがフレスコ画の画像を持って訪ねてこられたんです。
この絵をスカーフにできませんか? という依頼でした。

はじめて見たときの印象はいかがでしたか?

遠藤  まず感じたのは、絵自体の迫力ですね。
それと「何種類の色を使って描かれているんだ?」と思いました。
職業柄、絵を見るとまず色数を数えてしまうんですよ。
スカーフはシルクスクリーンで刷ります。
たとえば《白》と《黒》で描かれた絵があったら、
それぞれの版を刷り二つを重ねることで1枚の絵になります。


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▲いちばん右は本来絹の生地の白色です。柄の中の薄い色から刷っていきますので、
この図案の場合はまず白目の部分を白の版で、そして周りの黒い部分を黒の版で刷って完成です。


遠藤  これを版数というわけですが、今回のフレスコ画を拝見したとき
「何版作ることになるかなあ......」と思いましたね。

葉っぱ1枚とっても、緑色の濃淡がありますね。

遠藤  そうなんです。
社内の色分解のスペシャリストに見せたところ、
緑だけでも6色に分ける必要があると。
色を重ねることで違った色目になる《重色》という技法を駆使しても、
全部で38版が必要になることがわかりました。

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▲何色あるでしょうか......?

いままでそのような版数で作られたことはあったのですか?

遠藤  ありません(苦笑)。30版くらいが最高だと思います。
スカーフは一概に色数が多ければ良いというわけではなく、
最低限必要な色にしぼりこみ、今回は38色に決まりました。
ですから僕たちにとっても挑戦でしたね。
そしてジブリさんと打ち合わせを重ねてゆくうちに、
この色彩に《手捺染》(てなっせん:手で染色する作業)で挑戦できるのはいましかない、と思ったんです。

〝いましかない〟とはどういうことでしょうか?

遠藤  スカーフは、独立した職人さんがそれぞれのパートを別々に仕上げて、
バトンを渡すようにして仕上げてゆきます。
でもどのパートの職人さんたちも、このレベルの仕事を任せられる人が少なくなってきているんです。

なるほど、そういう状況の中でもあえて挑もうとされたのですね。

遠藤  現実的には時間もお金もかかることにはなりますが......。
でも、もしかしたらこの機会を逃したら、
このレベルの国産手捺染スカーフはもう作れないかもしれない。
それでみんなを巻き込み、「やってみよう!」と。


いままでになかった挑戦がはじまります。
それでは、フレスコ画スカーフができるまでの道のりを見ていくことにしましょう。




絹の道①――トレース職人の深遠なる技

原画を38色で刷り重ねることが決まると、
まずは色を分解した原画を作成することになります。
港町横浜から、長野県伊那市へ......。
駒ヶ岳を望む静かな場所に、原画作りの職人さんがいます。
吉澤さんはたった一人、黙々と大きな透明なセル板にペンを走らせていました。


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▲【作業中の吉澤徹さん】
1961年生まれ。むかしから絵を描くことが好きで、伊那市の製版会社で勤務後、独立してシルクスクリーンのトレース職人に。30年近く手描きにこだわり続けるベテラン。


どういう作業をされているのでしょうか?

吉澤  簡単にいうと色ごとに分解した図案を、
1色ずつセル板の上に描き直すことをしています。
38色を全部分けて、色別のシートを作るようなものですね。
インクを透過させるため、点描で描いていくんです。


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▲中トトロは3色の指示があります。これを色ごとに分けて描きます。

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▲点描で描く細かい作業!

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▲実線や点描で何段階にも表現したシートを作っていきます。「とうぜん細かいところははっきり出てこないので、出ないことを計算しながら太く描くんです」

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▲色ごとに描き分けられた膨大なトレース原画。あまりの枚数に、全部を重ねるといちばん下は見えなくなるほどです。


今回の場合はフレスコ画の絵を38色に分解して、
それぞれトレースし直したということですね。

吉澤  そうですね。大変でした。
普通の図案なら10色前後なので二~三週間でできるんですが、
この図案は七ヶ月かかってしまいました(笑)。

七ヶ月もひたすら点描を続けられたんですね......。
繊細なトレース原画を描き起こしてゆくコツのようなものはあるのでしょうか?

吉澤  ひたすら描くだけですね。
半年とか、長期にわたる仕事は体力的にもとても大変です。
ここまで時間のかかる仕事は最近めったにありません。
でもやりがいはありますよ。
まあ、半分楽しんでやっていますけどね(笑)。

吉澤さんは「好きだからやれるんです」と微笑みました。
究極のアナログ作業で、フレスコ画スカーフの要となるトレース原画は完成します。
それは再び横浜の製版工場に移され、
シルクスクリーンの版へと変換されます。
そしていよいよ染色の工程へと進むため、山形県鶴岡へと運ばれます。




絹の道②――きめ細やかさが生む豊かな彩り

田園風景が広がる東北地方、山形県鶴岡市。
芳村捺染(なっせん)さんは創業81年の老舗工場。
手捺染の工場としての規模と精度は随一です。
今回のような40版ちかい作業を安心して依頼できるのは、
もはやここだけということでお願いすることになりました。

年季の入った広い工場には、
斜めになった捺染台が向かい合わせに並んでいます。


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4人の女性がそれぞれアルミニウム枠に入った版を絹の上に置き、
薄い色から濃い色へと1色ずつ順番に、
染料をスキージ(ゴムべら)で刷り込んでいきます。

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捺染台の谷にあたる狭い空間を、絶妙な間合いで次々と静かに移動し、
粛々と色を重ねてゆく姿はとてもしなやかで美しいものでした。
すばらしい手捺染の作業を見せていただいたあと、
社長の芳村さんにお話を伺いました。

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▲【有限会社 芳村捺染 代表取締役 芳村貞夫さん】
1946年生まれ。もともと横浜にあった芳村捺染は、41年前に河川拡張工事により立退きに合い鶴岡に移転。以後、芳村氏はこの土地に溶け込み、温和かつ実直な人々と共に見事なスカーフを生み出し続けている。

4人の方々の連携がスムーズで、まるで舞を観ているようでした。

芳村  一見すると何事もなく刷り上げているように見えますが、
じつは細かい所に調整を加えながら刷っているんですよ。

細部の調整とはどういうことでしょうか?

芳村  たとえば絵柄の表現に合わせて刷り方を変えているんです。
硬い表現の場合は強めに刷るといった力加減の調整や、
一色ごとに乾き具合をみて空調もこまめに調整しています。
しかも今回のような版の数が多い場合は、
コンマ何ミリ、髪の毛一本単位でズレないようとても気をつけて刷っています。

次々とリズムよく刷っているようで、
失敗の許されないプレッシャーがあるのですね。

芳村  やり直しが効かない作業だから、
間違いなくプレッシャーはかかっていますね。
女性はプレッシャーに強いんでしょうかね(笑)。
ほんとによくやってるなぁと思います。
でもこのスピードで作業しても、
通常のスカーフの三~四倍の時間がかかりますよ。


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▲チームで作業を行うので、次の人のことを考えながら作業するそう。はにかみながらも笑顔をみせてくれました。


この手捺染の手法でスカーフをつくれるところは
芳村さん以外にもうないのでしょうか?

芳村  大判のスカーフを手捺染でできる工場というのは、もううちしかないと思います。
機械でやれる工場はありますが、うちがやめたら手捺染の大量生産はもうできなくなるでしょう。

機械式ではなく《手》で刷るスカーフの特徴には、どのような点があるのでしょうか?

芳村  手捺染は強くプリントして、
裏表をなくすくらいまで染料を浸透させるところにあるんです。
ここが手捺染ならではの技術です。
あとはこの柄の場合、一版一版を手で描き起こしているから、
線がデジタルのカッチリした線とは違うんですね。
揺らぎのようなものがあるというか......。
描き上げたトレーサーさん(※前項の吉澤さん)がすごいと思いますよ。

手で仕上げてゆくことで、
目には見えない〝やわらかさ〟のようなものが出てくるんですね。

芳村  手捺染の魅力はなんだと訊かれると、
ここがまったく機械とは違う、というものはないんですが、
並べたときに感性としては豊かだと思うんですよ。
それを信じて、手捺染の企業として残っていくことを目指しているんです。


38版を刷る!手捺染の詳細はコチラ


「一番ヘビーな仕事のひとつ」という、今回のフレスコ画スカーフの捺染。
刷り上がると、蒸して熱を加え染料を定着させます。


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そして蒸し上がった生地は水洗いの工場に届けられ、絹ならではの輝きを与えられるのです。




絹の道③――水が磨くシルクの輝き

さて、前日に芳村捺染さんで蒸し上がった生地は、
同じ鶴岡市内にある羽前絹練さんへと納入されます。

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▲非常に格式のある門構えが印象的ですが、お話を聞いてびっくり。
創業は1906年、いまの建物も1940年に建てられたものなのだそうです。今では関東~東北でこの規模の絹練工場は、羽前さんだけとなってしまったとのこと。


絹錬(けんれん)とはつややかなシルクには欠かせない工程です。
絹は、絹錬という工程を経ることで輝きとやわらかさが産まれるのです。


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▲羽前絹錬株式会社 代表取締役 阿部純次さん(左)と、工場長の冨樫 進さん(右)。
「絹練の作業は機械でやったら擦れたり傷がついたりしてだめなんですね。人間が確かめながらやっていかないといけない仕事です」(阿部社長)

【コラム:絹を練る作業の秘密

じつは羽前さんが仕上げたシルク生地が
芳村さんに納入されて捺染をし、その後にもう一度ここに戻ってきたのでした。

そして、ここでは染料に含まれる糊の成分を水染整理するのです。

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フレスコ画が連続する生地が、長く大きな機械の中を、
いくつものローラーをくぐりながら、
水洗いされ、伸ばされ、乾かされていきます。

こうして不純物がのぞかれて
シルク特有の気品ある光沢、滑らかな風合いが生まれます。

水洗いの済んだ生地は折りたたまれたあと、再び横浜に運ばれ、
裁断と縫製、箱詰めという工程を経て完成します。




その終着点へ

色数を見極めて、それを実際に版に分解するトレース作業、
機織りから精錬、染色から水洗、裁断から縫製......。

横浜を出発点に、伊那を経由し鶴岡へと至る《絹の道》は、数多くの職人さんたちの誇りと、
思いやりの連携プレーによって紡がれていました。
しかし昨今の絹織物を取り巻く状況は他の業界とも同じで、
なかなかに厳しいものがあるといいます。

遠藤  実際には《絹の道》という規模ではなく、
切れかかった糸の上をあるいているようなものですよ。
これからは現在残っている会社がどこまで生き残れるか。
綱渡りでやってますので、どこのパートがなくなっても
産業として成り立たなくなってしまうんです。

国産スカーフを支える道は、そのどれかひとつ、
誰か一人でもバトンを渡せなくなると途絶えてしまう、細い道なのですね。

遠藤  そうですね。運命共同体です......。ここまできたら、もう意地ですね(笑)。

フレスコ画をスカーフにしたい、という想いからはじまった《絹の道》は、
それぞれの職人さんたちの誠実で真摯な仕事の連鎖が生み出す奇跡の1枚でした。

ショップの店頭も、その担い手たちの一端として
思いをつないでいける場所であれたら...。
この取材の最後に、そんな気持ちを新たにしました。

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▲ショップ店頭を彩るフレスコ画スカーフ

(2015年9月15〜16日、山形県鶴岡市にて)





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今回ご紹介するのはこれからの季節におすすめのあたたかな素材の商品です。

「オリジナルブランケット」 ...15,000円(税別)

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スウェーデンにある小さな島、オーランド島発祥「ULLCENTRUM」によるトトロのブランケット。毛足が長く艶のある羊の毛を使っているので、肌触りもよく、包まれたときの自然な暖かさは抜群。一度使うと冬の間中手放せなくなります。白とグレーの羊毛で、トトロやどんぐりの柄が両面にかわいいリバーシブル。ふんわり軽いので膝掛けとしてもご使用いただけます。


「シェニール織タオル」 ... 各1,500円(税別)

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一度折った織物を再度織ることで、表と裏に同じ絵柄を出せるシェニール織りのハンドタオル。たくさんの色数で織られた美術館の紋章が豪華です。ベルベットのようなふっくらと暖かみのある肌触りで、ポケットに一枚あると嬉しい一品。タオルの他に、同じ紋章をあしらったバックも2色揃っています。


「シェニール織コースター」 ... 各\500円(税別)

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12種類のトトロの絵がシェニール織りのコースターになりました。この12の数字とトトロの絵は、カフェのマグカップやプレートにも描かれているもの。お誕生月で選んだり、好きな数字で選んだり、お土産にも最適です。シェニールの織り目によってトトロの表情も一点ずつ異なるので是非手にとって選んでみてください。


※商品は品切れの場合がありますので予めご了承ください。