本棚より[季刊トライホークス 2013年33号]
2013.06.10
世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。
のはらひめ
ある日、「おひめさまになりたい」と思い続けていた"まり"のもとに、お迎えの馬車がやってきました。馭者に連れられてお城に着くと、おひめさまになるためのお勉強が始まります。
世界中から集められたドレスの中から「おすきなものをおめしください」なんて言われても、まりは選ぶのが難しいわ、と思ったのではないでしょうか。ふわふわで綺麗な衣装はどれも素敵で、ときめいてしまうからです。
王子さまと結ばれるためにはいろんなことを覚えて賢くならなければいけません。さらに「やまたのおろち」のような強力な敵を、自ら倒す強さも持っていなければなりません。命がけだけれど頑張ってみるわ、とまりは思ったのではないでしょうか。1番立派な王子さまと幸せになりたいからです。
お姫さまになりたいと願ったことがあってもなくても、まりの気持ちを理解できると思います。めくるたびに現れるかわいらしい絵を見ていると夢の中にいるようで、特に「おようふくべや」の場面にはうっとりとした気分にさせられるからです。
さて、お姫さまになるための勉強が全て終えたら、どうするのでしょう。まりの"勝手気ままなお姫さま"らしい選択に、思わずにやりとしてしまいました。今も昔も女の子はお姫さまに憧れるもの。たくさんの人が楽しめるお話だと思います。
動物たちとの森の暮らし わたしの山小屋日記 春
この本の著者、今泉吉晴さんは山梨と岩手に山小屋を建て、森の小さな動物たちの観察・研究を続けている動物学者です。ここに収められているのは、朝日新聞PR版のコラム「ムササビ先生のどうぶつ日記」と本書のために書き下ろされたエッセイで、ふたつの山小屋での暮らしが写真とともに紹介されています。
ある春の日、巣から落ちたムササビの赤ちゃんが今泉さんのところへ届けられました。
今泉さんは、ムササビを健康に育てる自信はあったけれど、赤ちゃんを育てるとしたら、ペットにするのではなく、森で暮らせる一人前のムササビに育てなければ、山のお母さんに申し訳ない、と「チビちゃん」と名づけ赤ちゃんを育てます。
動物に会うために建てられた山梨の山小屋は、六畳ひと間、二階は一畳程度、周りの緑と木に同化したこじんまりした建物です。ここで出会う動物、植物などの様々な生き物を、今泉さんはまず見ることからはじめます。
今泉さんの自然への接し方をみると、自分と自然との距離は、住んでいる場所ではなくて目の向け方なのだと感じます。もちろん、山に住んでいる動物たちとは、山でなければ出会えません。でも、自分の周りにもいろいろな生き物がいます。もう少し注意深く周りに目を向けたいと思わせてくれた一冊です。
四季折々の山小屋の生活、そして、ムササビのチビちゃんがすくすく育ち、森で生活できるようになるまでの様子、ぜひ読んでみてください。
季刊トライホークス 33号(内容紹介)
「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。
- 夢中になって読んだ本
- 今森光彦 さん。写真家として、またハサミで自然の造形を鮮やかにきりとるペーパーカットアーティストとしても知られている今森光彦さん。今回は「足もとの自然」というタイトルのもと、『ファーブル昆虫記』を紹介していただきました。昔から様々な形で出版されている本なので、読んだことがある方も多いと思いますが、今回紹介している集英社から出ている完訳版は、写真や挿絵も豊富な美しい本です。今森さんの紹介文を導き手に、小さな生き物たちの世界が描かれたこの本を、改めて手に取ってもらえたらと思います。著作に『今森光彦昆虫記』『世界昆虫記』(福音館書店)、『スカラベ』(平凡社)、『里山物語』(新潮社)、『世界のクワガタムシ』(アリス館)など多数。
- 連載「アーサー・ランサム(第1回)」
- 33号から4回にわたって紹介するのは、イギリスの作家のアーサー・ランサムです。『ツバメ号とアマゾン号』(岩波少年文庫)は、宮崎駿監督のおすすめの1冊でもあります。まだこの本と出会っていない方にとってのきっかけとなるように、今年は特に力を入れて紹介していきたいと思っています。
- 山猫だより「気持を新たに」
- 美術館の裏側(?)、日常について書いています。33号では、長期休館中の美術館で、どんなことを行っているのか。日誌とはまた違う、美術館の一面をお楽しみください。