本棚より[季刊トライホークス 2017年50号]
2017.12.11
世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。
みつばちさんと花のたね
ある雨の日、びしょぬれの"みつばち"がデイジーのところにやってきました。さとう水をごちそうし、濡れたからだをドライヤーで乾かすと、みつばちは元気になりました。それからデイジーとみつばちはいつも一緒。みつばちはぐんぐん大きくなって、ある時デイジーを背中にのせて野原をめざして飛び立ちました。
この本の作者アリソン・ジェイさんが絵を担当した『くるみわりにんぎょう』(徳間書店)は、2014年度の美術館企画展示「クルミわり人形とネズミの王さま展」のきっかけを作った絵本です。宮崎駿監督がこの絵本に出会わなければ、企画展示の実現はありませんでした。そして、今年の6月に刊行された『みつばちさんと花のたね』を読んだ宮崎監督はこの本を気に入り、「なんて愛らしいみつばち!! みどり色がとても美しい絵本です......」というコメントを書いてくれました。
日本版の絵本では文章がつけられていますが、原作は文字のない絵だけの絵本です。丸い顔に黄色と茶色のふわっとしたからだのみつばち。デイジーと自転車で出かけたり、お茶を飲んだり......。見ているだけで幸せな気持になります。さらに、建物の窓にはそこで暮らす人びとがいて、通りを行く人、車、鳥や葉っぱまで丁寧に描かれているので、階層ごとにのぞいていく楽しさや、他でもお話が生まれてきそう気配を感じます。
やさしい色使いで世界が創られ、絵のすみずみまでじっくりと見て、読む楽しさにあふれている本です。
魔女がいっぱい
意地悪でどぎつい表現や展開に驚きつつ、引きこまれてしまう物語ってありませんか。本作も読後の印象が強烈なため、好き嫌いが分かれそうですが、時間を忘れて読んでしまう本だと思います。
それは、夏休みにおばあちゃんと訪れたホテルでのことでした。少年は〝素敵なご婦人たちの集まり〞に見せかけた魔女の集会に迷い込んでしまいました。仮面をはずした魔女たちは、爪はまがり顔は腐りとても醜い姿をしています。この日は大魔女から魔女たちへ、イギリス中の子どもたちをネズミ化する計画が発表されました。全てを聞いていた少年は、魔女たちに見つかってしまいます。
魔女軍団に囲まれ、ネズミの姿に変えられてしまった少年の状況は、ホラー作品のように恐ろしく、空想物語でありながら現実的な設定が不気味さをかきたてます。恐くて先を読めない子どももいるでしょうが、逆に怖いもの見たさでやめられなくなる子どももいると思います。魔女の言葉づかいやネズミに変えられた金持ちブルーノくんなどなど、こっけいでユーモラスな描写もたくさんありますが、ダールの語り口は少し残酷で、独特のブラックさが漂います。紫で描かれたクェンティン・ブレイクの挿絵もそんなお話にぴったりです。
おばあちゃんと少年は魔女たちに反撃することにしますが、さてどうなることでしょう。ページをめくる手が止まらなくなり、最後まで楽しいのですが、予定調和を想像していると裏切られるので、ご注意ください。
季刊トライホークス 50号(内容紹介)
「季刊トライホークス」は、図書閲覧室で3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。
- 夢中になって読んだ本
- 今回は絵本作家のいとうひろしさんに本を紹介していただきました。いとうさんが取り上げた2冊の本を通して、絵本の奥深さを改めて知ることができました。
- 連載「ロバート・ウェストール(第3回)」
- ウェストールの "怖い話"を取り上げています。カーネギー賞を受賞した『かかし』や『ゴーストアビー』など迫力あるホラー作品の他に、彼が選者となって出版されたGhost Storiesという22篇を集めたオムニバス作品も取り上げています。
- 山猫だより「子どもの1日」
- 美術館の裏側(?)、日常について書いています。今年の夏、美術館では夏休みの1日を子どもたちだけの空間として開放し、美術館を思いきり楽しんでもらおうというイベントを行いました。