本棚より[季刊トライホークス 2019年55号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

ファーブルの昆虫記 上・下 

著者...ジャン・アンリ・ファーブル 編訳...大岡 信  岩波少年文庫 各760円
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 「ファーブル」という名前は知っていても、『昆虫記』を読んだことがない、もしくは「虫」の話に心惹かれないという人は多いかもしれません。けれど、それはもったいないことだと思います。食わず嫌いの可能性もありますよ、という気持ちでこの本をおすすめしたいと思います。
 著者であるジャン・アンリ・ファーブルは、1823年に南フランスの小さな町で生まれました。ファーブルが本格的に昆虫を研究するようになるのは20代後半です。その頃の昆虫学は虫の標本を分類するというやり方が主なものでした。けれども彼は生きた虫を観察すること、その生態を理解することが大切だと考えたのです。
 ある時、ファーブルは「タマムシツチスガリ」についての論文を読みました。そこには、タマムシツチスガリが餌として捕まえたタマムシがいつまでも腐らないのは、獲物に防腐剤のようなものを刺しているからだと書かれていました。ファーブルは、身近に生息する「コブツチスガリ」を観察します。観察に観察を重ね、獲物が腐らないのは神経が集中しているところにハリを刺すことで、獲物を麻痺させて生きたまま保存しているという結論を導き出します。
 本に書いてあることが真実とは限らない、目の前の虫たちから真実を知ろうと観察を続け、書き上げられた『昆虫記』からは私たちが見る世界とは別の世界が広がっています。宮崎駿監督は『本へのとびら』(岩波新書)の中で次のように語っています。「虫がとくに好きじゃなくてもこの本のとりこになります。なかでもフンコロガシの話にぼくはすっかり心をうばわれました。フンコロガシ達は動物のウンコをダンゴにまるめてコロガシていくのですが、だんだんそのオダンゴがおいしそうに思えてくるんです。ほんとうですよ。」
  全10巻の『昆虫記』から、この少年文庫には日本で日常的に見つけることができる昆虫を選んでまとめられています。私たちのすぐそばで驚くべき能力を発揮している小さな生き物。彼らが作るオダンゴが美味しそうに思えるか、気になる方はぜひ読んでみてください。

だまされたトッケビ
韓国の昔話

編・訳...神谷丹路  画...チョン スンガク 福音館文庫 600円
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 昔々、あるところにトッケビたちが住んでいました。みんなで集まって酒盛りをしようと思ったのですが、お金がありません。そこで、近くに住むキムさんにお金を借りに行きました。「明日の晩には、必ず返すから。」トッケビは約束通り、お金を返しに行きました。ところが、次の日も、その次の日も、毎晩お金を返しに行ったのです。何も言わずお金を受け取っていたキムさんは、どんどんお金持ちになりました。何十年もたって、自分の失敗に気づいたトッケビは地団太を踏んで悔しがりましたが、後の祭りです。渡してしまったお金は返ってきません。それからというもの、トッケビは何とかキムさんに仕返しをしようと機会を狙っていましたが......。残念ながらキムさんが一枚上手だったというお話です。
 トッケビは、朝鮮半島に伝わる精霊というか妖怪のような不思議な存在です。人のすぐそばにいて、いたずらもするし、ちょっとまぬけなところもある憎めないトッケビのお話は、まだまだたくさんあるので読んでみてください。

季刊トライホークス 54号 (内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室で3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

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夢中になって読んだ本
図書室でも大人気の絵本「じごくのそうべえ」シリーズの作者・田島征彦さん。今回は、田島さんが何度か作品の舞台として取り上げてきた"沖縄"の本を中心に紹介してくださいました。
連載「ジュール・ヴェルヌとその時代(第4回)」
作家の荒俣宏さんに執筆していただいた連載の最終回。『二年間の休暇』というタイトルのヴェルヌの代表作、実は日本人の間では別のタイトルで親しまれています。
山猫だより「2018年の読書会」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。美術館では、毎月1回のペースで読書会を行っています。参加するための唯一の条件は、本を読んでくること。今回は2018年に読書会で取り上げた本について紹介しています。