本棚より[季刊トライホークス 2019年56号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

だれが君を殺したのか

著者...I.コルシュノウ 編集...上田真而子  岩波書店 品切重版未定
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 17歳の少年クリストフは、峠を自転車で疾走し、事故にあって亡くなりました。彼が埋葬される日、教会に集まった大人たちは悲しんでいるような顔つきで座っていました。少なくとも親友だったマルティンにはそう見えました。クリストフの最期の目撃者であるマルティンは、彼の死は本当に事故だったのか、親たちや教師、クリストフの恋人と話していくなかで考えます。
 話しかけてもこたえなかったり、噛みつくような態度をとる、かたくなで複雑な10代の少年少女たち。感受性の豊かなクリストフはまさにそんな少年で、その振る舞いのために頻繁に教師たちの攻撃を受けて傷つき、体に怒りとあきらめをためていきます。またクリストフの父親はとても厳しい人で、言うことをきかせるために息子の大切なものを取り上げる人でした。
 物語はクリストフを隣で見ていたマルティンの視点で語られるため、難しい年ごろの子どもに自分たちの理想を押しつけ、追いつめていく大人たちの理不尽さを、細かく描いていきます。悲劇は突然起こったのではなく、大人たちによって少しずつ作り出されたと知らされているようで、胸が痛くなります。一方でマルティンは、クリストフの死を悼み、マルティンを気づかう大人たちの存在も知ります。またマルティン自身も、恋人だったウルリケも、自分たちがあんなことをしなければ、と心を揺らします。そしてクリストフの事故の真実とは......。親友の死と向き合いながら自分で考え、悲しみを乗りこえて歩き出すマルティンの姿に、明るい未来が感じられました。
 子どもの残酷さ、大人の愚かさ、生きているなかで生じる矛盾と妥協。世界中にありふれている問題を、一人の少年の死を通して示すこの作品は、ほろ苦い青春物語という枠ではくくれません。大人にも子どもにも、あなたはどう生きているのかと、強く問いかけてくる物語です。

一万歳生きた男
子どもに語る
モンゴルの昔話より

訳・再話...蓮見治雄  再話...平田美恵子 こぐま社 1,600円
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 昔あるところに、トゥンジンフーという若者がいました。ある時、閻魔(えんま)大王の使いの男がやってきて、ラクダ三十頭につんだ銀とラクダ十頭につんだ食べ物を、ラクダ五頭分の金に換えてくるように頼みました。トゥンジンフーが銀や食べ物を売り、金を持っていくと、使いの男はお礼にトゥンジンフーの名前を閻魔帳からけずってくれました。閻魔帳に名前がなければ死ぬことはありません。トゥンジンフーは金持ちになり、妻をめとり、子どもも生まれましたが、妻や子どもが死んだ後もずっと生き続けました。ある時、トゥンジンフーが死なずにいることを知った閻魔大王は、トゥンジンフーを地獄に連れてこようとしますが......。一万歳のトゥンジンフーが、最後は地獄で楽しく暮らしたというお話です。
 海に囲まれている日本と違って、隣国と陸続きのモンゴルではよその国の神様も昔話に登場します。また、日本でよく知られている「スーホの白い馬」のように、モンゴルの人と共に生きる動物たちが多く登場する、草原の国のお話です。

季刊トライホークス 56号 (内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室で3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

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夢中になって読んだ本
絵本作家のさとうわきこさんにお話を伺いました。元気いっぱいのおばあちゃんやお母さんが活躍する「ばばばあちゃん」や「せんたくかあちゃん」シリーズでご存知の方も多いと思います。さとうさんが惹かれた言葉と絵の世界の一端をご紹介します。
連載「ロアルド・ダールとその作品(第1回)
新連載ではロアルド・ダールと彼の作品を特集します。第二次世界大戦中、英国空軍のパイロットだったダール。負傷して引退した後、米国で大使館に勤め、物語を発表します。短編の名手として評価された後、児童書を書くようになり、多くのベストセラーを世に送り出します。初回は映画化もされ有名になった代表作『チョコレート工場の秘密』を取り上げました。
山猫だより「企画展の本」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。昨年11月から始まった「映画を塗る仕事」展の関連書籍として、図書室に置いてある本を紹介しました。企画展に合わせて、ぜひ手に取っていただけたらと思います。