本棚より[季刊トライホークス 2014年37号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

おちゃのじかんにきたとら

作...ジュディス・カー 訳...晴海耕平 童話館出版 1,400円(税抜)

 「おちゃのじかん」なんてすてきなひびきでしょう。朝ごはんでも、昼ごはんでも、夜ごはんでもなく、「おちゃのじかん」です。白に青い模様の入ったカップ、お皿の上には白いクリームに赤い飾りのついたケーキ、ビスケット......、ソフィーとおかあさんのテーブルには、心おどるものが用意されています。カップにお茶を注いだそのとき、玄関のベルが鳴りました。ソフィーがドアを開けると、そこには毛むくじゃらの、オレンジと黒の縞模様の、大きくてりっぱなとらがいて、「ごめんください。ぼくとてもおなかがすいているんです。おちゃのじかんに、ごいっしょさせていただけませんか?」と言いました。

 ソフィーは立派な毛皮をなでたり、太い尻尾を触ったり、急な訪問者を大歓迎ですが、見ているこちらは、どんどん減っていく食べものにはらはらしてしまいます。案の定、とらが全てを食べつくして夕ご飯が作れなくなってしまいました......。
 色鮮やかなこの絵本、すてきなのはテーブルに置いてあるものばかりではありません。カラフルなタイツ、ストラップのついた黒い靴。緑のワンピースに青いカーディガン、ソフィーやおかあさんの洋服もすてきです。そして家の中のものひとつひとつがとてもおしゃれなのです。

 すてきなものが山ほどあって、とびきりのお客様がやってきて、何だかよくわからないまま、忘れられない不思議な時間を過ごす。そして、最後は帰ってきたお父さんのアイディアで一軒落着。すばらしい結末にほっとひと息、そんな楽しい絵本です。

からすが池の魔女

著者...E.G.スピア 訳者...掛川恭子 岩波書店 2,300円(税抜)

 気味の悪いタイトルに、時代がかった表紙。図書室ではあまり目立たない本のひとつなのですが、現代にも通じる人間の危うさを描いている物語であり、ぜひ手に取ってもらいたい一冊でもあります。

 17世紀後半、カリブ海の島で自由に育てられた少女キットは、裕福だった祖父を亡くし、コネティカットに住む叔母をたよります。静かな町に住むピューリタンの叔母一家は、規律を重んじる生活をおくっていました。新しい生活になかなか馴染むことができず、だれもいない草原で泣いているとき、キットは額に焼き印のある老女ハンナと出会います。ハンナとの時間に心の安らぎを得たキットは、周囲に内緒で会いに行くようになります。やがて町には原因不明の熱病が広まり、"魔女狩り"が叫ばれます。

 クエーカー教徒のハンナや奔放なよそ者キットは、住民たちにとって理解できない存在だったことでしょう。町が平和なときは良いのですが、疫病が流行り不安に包まれると、住民たちは異質な弱者二人に憎しみを向けます。考えることをやめてしまった集団は止まりません。最悪な事態の展開に、重苦しい気分になりました。恐ろしいことですが、人間の歴史の中では、繰り返し起こってきたことです。

 しかし数少ない仲間の理性や愛情が、主人公の窮地を救います。そして予想外の奇跡も起こり、人間の存在を前向きに捉える結末に安心感を覚えます。登場人物たちの人物像や宗教観、歴史的背景なども興味深く、読みごたえのある作品です。

季刊トライホークス 37号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
『アーサー・ランサム全集』(岩波書店)ほか多数の児童書や絵本を翻訳している神宮輝夫さんに、読書歴をお伺いしました。子どものときに体験した読書の楽しみが、今のお仕事につながっているそうです。神宮さんが夢中になって読んだという古典の数々を、みなさんにも手に取っていただけたら嬉しく思います。
連載「ローラ・インガルス・ワイルダー(第1回)」
37号から4回にわたって、ローラ・インガルス・ワイルダーとその作品を紹介します。物語の主人公でもあり、作家でもあるローラ・インガルス・ワイルダーは、19世紀後半の開拓時代を生きた女性です。彼女が60歳を過ぎてから、子ども時代を思い出して書いたのが、「小さな家シリーズ」と呼ばれる10冊の物語です。37号では、第一冊目の『大きな森の小さな家』を紹介しています。
山猫だより「三鷹の森のかんさつ会」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。今回は3月に行ったイベント「三鷹の森のかんさつ会 in ジブリ美術館」について。近隣の小学生と一緒に、日ごろ、井の頭公園で活動している「井の頭かんさつ会」の方々から、森の話、鳥のこと、木々や葉っぱの間にある菌糸など、公園に住むおもしろい生き物のことを教えていただきました。